ショスタコーヴィチの交響曲ではおそらくもっともよく知られた曲だと思う。最終楽章は、ニ短調で始まって、最後はニ長調で輝かしく締めるのだが、この最後の部分の和声構造を見てみたい。音はこちら。
音楽はもう第4コーナーをまわっており、最後の全終止に至るところだが、弦と木管はひたすらしつこくC#を鳴らしている。もちろんこれはニ長調になってDに解決するわけだが、その直前にショスタコーヴィチが仕掛けたのは、まずトランペット三本によるC#の長三和音である。これは各小節ごとにトップのパートが入れ替わるという「小細工」が仕掛けてある。317小節目にホルンがBを鳴らして、和音はC#7/Bっぽくなる。319からトロンボーンがこれもオクターブでGを加え、ここでG-C#という増4度が形成されて、ドミナントA7が準備されている。321小節目でバスにAが鳴るが、ここの和音は、下から A G B C# E#(F) G# となっており、一筋縄ではいかない和音である。あえていえば A7#5 #7 9 で、GとG#がいっしょに鳴るし相当不協和である。次の小節、ニ長調にはいる直前で不協和だったトランペットのG#を半音上げてAとし、さらにホルンのBを半音下げてBbとして、めでたくA7 #5 b9となって、主和音Dに解決する。