バルトークの弦楽四重奏曲第4番。第3楽章は、基本的に6音のクラスターの上でソロ楽器がメロディーを奏でるという形になっている。クラスターがどのような和音になっているか調べてみたいので、簡略化した譜面を作ってみた。音はこちら。
最初に導入されるクラスターはほぼ全音間隔で配置された和音である。この上でチェロが民謡風の旋律を奏でるが、背景和音に含まれない音を選ぶように旋律が運ばれる。音の重なりは絶対に避けられているというわけではなく、旋律線の都合で重なっている部分もある。7小節目の旋律ではcis desは背景和音に含まれる音である。
背景和音は徐々に音域を広げていく。14小節目の和音は低音が少し離れ、クラスター二つが合わさったような形になっている。チェロの旋律の最初の音gは背景和音にオクターブ下のgがあるが、半音上のgisが鳴っているので不協和である。続くfも背景にeがあるので短2度でぶつかっている。
22小節目も背景和音のgis b が鳴っているところで旋律はa h で始まり短2度で強烈にぶつかる。その後に出てくるfis g dis cis もすべて背景和音にない音であるが、この「二つの平面が立体的に交錯している感じ」がたいへん魅力的に響く。
32小節目のクラスターはかなりマイルドなもので、Emajor9(13)と見ることもできるが、旋律は低い音域ではあるが、背景和音にない音を慎重に選びながら進む。34小節目に至って、チェロは旋律を終わり、第1バイオリンのobbligatoが奏される。これはes f の2音に限定されたもので、もちろん背景和音にこれらの音はない。
音楽は41小節目の4度の和音で一段落して、42小節目からAgitatoとなり、背景和音は第1バイオリン、ヴィオラ、チェロが担当してsul ponticello のトレモロと通常の音との交代によるリズムを打ち出す。
47小節目からのエピソードは背景和音は4分音符によるges b des es as で、あえて言えばEbm7(11)だろうか。第2バイオリンの旋律はes des を含み厳密に背景とぶつかっているわけではない。これに加え、violaがh c d e f を演奏するので欠けているのはgだが、これは50小節目で第2バイオリンとヴィオラの完全にハ長調を感じさせるカノンで登場する。
55小節目からのエピソードもチェロと第1バイオリンの掛け合い(同じ動機ー上下反転を含めて緩やかなカノンを構成する)、第2バイオリンとヴィオラの背景で、それぞれのパートは調性を持ちながら、全体としては数小節で12音をほぼ使い尽くす。
64小節目からはエンディング。冒頭部分と同じコンセプトだが、背景の和音は最初はF#madd9とでもいったもので、これがチェロのe h の5度の上にのってはっきりと調性を感じさせる。背景の和音は徐々に厳しさを増していくが、最後の和音はa e fis h cis gis d でイ長調を感じさせる。不協和ではあるが調性感を残して、一音ずつ消えて行き、最後に最高音のdが残って終結する。冒頭のソロがdisを修飾に持つ長いd ではじまったことと呼応している。