マスネの超有名な「タイスの瞑想曲」である。初演は1894年。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」と同年である。
マスネは私の浅薄な知識でいう限り、それほど冒険的な音遣いはしていないのだが、この曲に関する限り、いろいろとトリックが仕掛けられている。69小節の奇跡。
楽譜はHeugel(1907)のピアノリダクションを拝借して、コードネームを書き入れた。"Re→"とかは調性の表記(参考)である。Reであればニ長調、reであればニ短調である。
まずは8小節目のA7(ニ長調のドミナント)からBbm(A#m)というちょっとしたギミック。
9小節目からメインテーマの頭にもどるが、すぐ12小節目13小節目の仕掛けが待っている。世界が広がっていくような効果を与える。ニ長調にもどるが、16小節目からのEm/Aというのは現代のポップスでも多用される分数和音である。
20小節目にもう一度C/Eを出して21小節目ではバスが半音下がってF#7 これは主調のIII7の和音にあたる。また、すぐに主調に戻る。
24-25はト長調、IV度和音のCはすでに先行していてみみになじんでいるところで、26小節目でこれに7度音を加え、劇的なヘ短調へと導く。32小節目減七の和音に倚音(F)を加えた劇的なパッセージを経てニ短調へ。32小節目の3拍目のバスはAになっているが、Fの誤りである。
38小節目が主題の再現。45小節目までは繰り返しで、46小節目はバスに7度音を置いたI7(これも現代ポップスの定番進行だ)をだしてIV(G)へ。50小節目でB(VI7)を出して変化をあたえる。
なかなか素直には終わらない。57小節目のC#7、59小節目のEb7はいずれも通常のコードの所謂裏和音(増四度=減五度上の和音)になっている。最後にいったん63小節目でBm(VI度)にとまって、その属和音であるF#7(III7)を出してやっとA7-Dと主調上に全終止する。ppで余韻を残して終わる。