松平敬さんの絶品の一人多重演奏を聞いてまたこの曲を思い出した。(最後にテルミンバージョンとともにリンクを貼っておきます)
武満徹「小さな空」は宝石のごとき小品である。音の使い方が独創的で、ストレートなクラシックではもちろんなく、ポピュラーミュージックにも分類しにくい。特にオリジナルの無伴奏合唱版が美しい。
例えば前奏部分。(譜例1)赤枠で囲んだBbmaj7は和声理論からのちょっとした逸脱できわめてチャーミングである。直前のF#dim7は普通の文脈ではD7の代替で、Gm7に解決するのだが、ここでは間に対斜が起きるのもいとわずBbmaj7を置いている。似たような音型は歌が始まってからは譜例2のように普通に処理されており、最初のこのギミックが光る所以となっている。
譜例3はその少し後だが、Bb からBbmに行くのは(IV度和音からIVm)常道としても、そのあとにBbではなくBナチュラルを持ち込んで響きをリフレッシュしている。ハーフディミニッシュ(Bm7(b5))はG7の代替でC7に解決するというのも常道なのだが、その前にC#を欠いたEm7(b5) on A > Am を置くことで空間が広がるような不思議な効果をもたらす。(ディクテーション間違いがあったらご指摘ください)