ムソルグスキーの音楽も創意工夫に満ちており、有名な「展覧会の絵」もカラフルな和声に満ちている。
終楽章の「キエフの大門」の終わりのところを見てみたい。
変イ短調のコラールのあと、①とした部分が実に魅惑的である。Fm7b5とFbM7(=EM7)が交代に現れる。Fm7b5はこの部分変ホ短調と捉えれば、II7の和音だが、FbM7はあえて言えばナポリの6度なのだろうか。バスに5度音が来ているので「6度」ではないが。
すこし飛ばして次の部分。
テーマが回帰して、いよいよ大詰めに入っていく部分だが、②の部分も少々変わっている。解釈としては基調としては変ホ長調で、そこに変イ短調(4度の短調)を借りていると見ればいいだろうか。和音の構成音はEb/Bbのところから
Bb Eb G
Cb Eb Ab
Bb Ebb(D) Ab
と滑らかに進行する。
③の部分も謎である。♭が多すぎて読みにくいのだが、シャープ系で書けば、AM7 A7 F#m/A (Bb=A#) ということで、トップの音が、Ab Abb(G) Gb F と滑らかに動いて偶成和音を成すということかと思う。
④の部分もダメ押しの工夫だが、この部分だけ基調である変ホ長調に対して、六度調の更に半音下の変ハ長調を借りてきたと考えればよいだろうか。このフレーズはもう一度繰り返されるが、二度目はC Bb(属和音)と進んで、めでたく変ホ長調にもどり大団円となる。