幼い頃に聞いて、クラシック音楽に興味を持つ原因となった曲の一つであります。曲はアイデア一発みたいなところがあるのですが、オーケストレーションの妙が人をそらさない魅力があります。
第一楽章は王の主題をあらあらしく提示してから木管のコラールが短く入って、ヴァイオリンソロとハープによるシェラザードの主題の提示になります。調号はホ短調になっているが、主音はあきらかにAであり、Aのドリアンといってよいと思います。このハープの和音が魅力的で、スコアを拾いびきしてうっとりとしていた記憶があります。
このAm6になる、F#の音(第6音)がドリア旋法の肝ですね。これがドイツ音楽になれた耳には非常に新鮮に響くのであります。続いて、海の波を表すようなチェロの分散和音の上に王のテーマの変形されたものが繰り返されます。
この部分の和声進行がこの曲のアイデアですが、バークレーもかくやと思われる機能和声の連なりです。順番に書き出してみると、
E E7b5 C#m7b5 B | B7b5 G#m7b5→ C#7 ★
C# E7≒Bb7⇒ Eb Gb7≒ C7⇒ F Ab7≒ D7⇒ G Bb7≒ E7⇒ A
A7b5 F#m7b5→ B7sus4 B7→ E
となります。→はサブドミナント→ドミナントの進行、⇒はドミナント⇒トニックの進行をしめしています。≒は減5度(増4度)離れた所謂「裏」コードです。★のところは前の和音の7度音(B)が何時の間にか消えていますが、いいのかなぁ。
この曲を聴くと、最初は感動的なのですが、いかんせんだんだん慣れてくるとこれの繰り返しなので飽きます。しかし、そこはリムスキー=コルサコフ大先生、オーケストレーションの妙で最後まで引っ張っていきます。次の部分を示します。
多少変化していますが和声の使い方は同工異曲であります。
この曲(全4曲の組曲)を最初にオーケストラでリハーサルを行ったとき、終わったところで楽団員がみんな作曲者に拍手を送ったというエピソードがありますが、真偽のほどはともかく、なるほどと思わせるオーケストレーションです。ストラヴィンスキーは彼に作曲を習ったのですが、和声の成績は悪かったようですが、オーケストレーションは巧かったらしい。ストラヴィンスキーは習作を感じさせる変ホ長調のクラシカルな交響曲を書いていますが、曲そのものはまったく後年のストラヴィンスキーを感じませんが、オーケストレーションは見事なものだと思います。
(ピアノソロへのアレンジはPaul Gilsonによるものをお借りしました)