7度のカノン。どうやったらこういうものが書けるのかは謎だが、はっきり譜面に記されている以上、分析することは可能である。
3声で、上二声がカノンになっており、バスがついている。バスの半音下降に伴うハーモニーの移ろいが美しい。楽譜中、rは掛留音、pは経過音、bは刺繍音、a は倚音である。
Em7b5はC7と考えれば、D7/F#-Dm/F-C7/E-Cm/Eb-D7という進行になる。2小節目のソプラノのDからCと、アルトのDからCの動きが並行していてちょっと気になるが、バッハなので許されるのだろう。
この曲では増三和音がところどころに顔を出して強い印象を与える。3小節目3拍目裏のEb G B という和音バスもソプラノも刺繍音であろうが、一瞬増三和音がなる。もっと顕著なのは、4小節目冒頭。ここはおそらくBbの和音中に中声が倚音としてF#をもっている(後にソプラノのGに解決する)とでも考えるのだろうか。
(追記)4小節目3拍目、内声のDは掛留音だとすれば、Cに解決しているが、Cm/Gだと四六の和音になってしまう。解決する時にはソプラノのEbが鳴り終わっているので、これはこれでいいのでしょう。(追記終り)
5小節目の1拍目裏もD F#にソプラノのBbを加えると増三和音になる。(厳密には減6度だが)5小節目の冒頭はソプラノのCは掛留音であるが、これが裏でBbに解決したとき、他の声部はすでにDの三和音に遷ってしまっているために、このBbは解決音であるとともに経過音ないし倚音という込み入った事情になっている。
増三和音は7小節目の2拍目裏にも出てくる。ここでアルトがF# になって和音はD7と考えられるが、バスが順次進行でBbを通るために一瞬増三和音がなる。次の3拍目もかなりアクロバティックである。和音はEbかと思われるがすぐGが鳴らなくなるために一瞬宙に浮いたようになるが、4拍目ではっきりEbになる。8小節目の3拍目、バスの2つ目のBbの音は和音が一瞬Gmになると考えるべきか。いずれにせよここではほぼ2声になっているのであまり問題ではないが。
後半(9小節目以降)も半音下降進行のバスを伴う。10小節目の2拍目のアルトの入りも少々無理があるが、これは小節頭にAを補って考えればいいか。11小節目の3拍目のアルトのEbも解釈が難しい。Abの和音かと思うが、ソプラノは明らかにGの掛留音がFに解決しているので両方の顔を立てるとFm7だろうが、この7度音(Eb)は解決しないことになる。??
13小節目3拍目のソプラノ冒頭のEのおとも無理スジだが、アルトが3度で寄り添っているので響きは問題ない。
あとはそれほどアクロバティックなことはなく終結する。最終小節の2拍目はAbの和音で、これは主調ト短調のナポリの6度である。
グールド版がYouTubeにあった。