ラヴェルはベートーベンを「あの音痴」と呼んだそうだが、確かにときどきそういわざるを得ないようなパッセージに遭遇する。5番のチェロソナタの最後のフーガだが、チェロの音色と勢いで聞かされてしまうが、相当書法は荒い。下の譜例で番号を書いたところが気になる部分であるが、一言で言うと、倚音の本位音にぶつかっていくようなところがあるのと、その本位音が倚音の上方にある場合があること、それと調性的に方向性の定まらないところがあること、そしていかにも響きが悪いところが多いことである。
下のサマリーはチェロ・パートを原則としてテノールに(所によりアルトに)配置して、他のピアノのパートは適宜分配して4声体に整えたものです。
ここでSはフーガの主唱、Rは応唱である。とりあえず、このテーマ(主唱)ももう少しなんとかならなかったのかと思わないではいられないが…
①和音が特定できない。響きが悪い。次の小節(19)の頭もDの主和音ならそうとはっきりすべきだ。
②テノールでDが待っているところへバスがC# Dと動くのはいかにも汚い。実際の演奏を聞くと勢いでごまかされてしまうが…
③ここもなにがやりたいのかわからない。G#がF#に突っ込んでいく。
④和音が不明確でかつ響きが悪い。
⑤いかにも汚い。
⑥テナー(チェロ)がアルトを横切る。音色がピアノと違うので実演では気にならないが、もう少し気をつかって書けないものか。
⑦ここも調性不明確である。小節頭で示された七度音が重なっていてしかも上行し連続同度をなす。
⑧響きが悪い。
⑨の部分は41-42小節と何がしたいのか皆目わからない。⑨の次の小節(42小節目)の最後のE G B Dという和音はいったい何なのか。さらに次の小節には対斜が起きている。
⑩響きが悪く、和音の性格がはっきりしない。
⑪下から短二度でぶつかっていく倚音(経過音)
言いたいことをわかっていただくのに、すべてをピアノの音で、テンポを落とした録音を付す。
https://soundcloud.com/jun-yamamoto/lvb-cs-5-3