中森明夫「青い秋」を読みつつ、故・北村昌士さんのことを思い出していた。彼との接点はおそらく1977年に、ほんの短期間、Thioniteというプログレッシブ・ロックバンドに参加していたというだけなのだが。
Thioniteは一度だけライブハウスで演奏したことがある。対バンはGrand Guignol(グラン・ギニョール)というグラム系のバンドだったと記憶している。Thioniteの方は私がMCをしたのだが、北村氏にあとでえらく叱られた覚えがある。「お前にはこれしかないというものがない(しゃべりに覚悟が感じられない)学芸会か」というような趣旨だったと思う。「グラン・ギニョールを見てみろ。これしかないという覚悟が感じられるだろう」というのだ。確かにこちらは苦労のないお坊ちゃまで、大学生活の傍ら楽しみで音楽をやっていたので、そう言われても仕方がないと思う。
そういう北村さんにしてもギターでC Am F G とかだらだら弾きながら意味があるのかないのかわからない英語(なのか?)の歌を歌うのだが、お世辞にもうまいとは言えなかった。彼に言わせれば上手い下手じゃない、覚悟の問題だというだろうが。ほどなくThioniteは雲散霧消した。
このライブがあった時期は、北村さんがFool's Mateの編集を始めたころと重なっているのではないかと思う。「音楽を雑誌で伝えるのは難しいですね」という趣旨のことを言ったら「これを見て、ちょっと聞いてみようかという人がいたらいいんだけど」とはにかんだように気弱な返事が返ってきたのが妙に印象に残っている。
2006年に急逝されたということを知った。もともと見るからに虚弱な感じだったので、その上にいろいろ無理が重なったのではないか、とこれは部外者の勝手な推測である。
曲がりなりにも、プログレッシブロックのはじっこをかじらせてもらったのは彼のおかげだと思っている。
因みにThioniteというのはレンズマンシリーズに登場する麻薬「シオナイト」をそれっぽくつづったもので、本来の綴りとあっているかどうかすら調べたことがない。
改めて調べたらあってた(笑)。当時調べた覚えがないので、まぐれ当たりか。