Jun Yamamoto音楽を語る

Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい https://jun-yamamoto.wixsite.com/jun-yamamoto

J. S. Bach Sinfonia IV d moll

指ならしというかリハビリテーションというか、いまさらながらインベンションとシンフォニアなんぞ弾いてみたりしているのだが、大バッハはこういう小曲でもあなどれないテクニックを存分に盛り込んでいるのにあらためて驚く。

シンフォニア(3声)4番のニ短調だが、和音は何なのか、どれが掛留音で、どれが倚音でどれが和声音なのか、ボーっとしているとわけがわからなくなるので注意である。

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20小節目の冒頭はD E F の音がクラスターになってしまう。Eは掛留音なので、Dが一オクターブ下なら何ということはないのだが、ここはあえてぶつけてみたのでしょうな。

20小節目のトップの半音ずつ上昇、22小節目の半音ずつ下降の処理は端倪すべからざる技巧につつまれている。

 

Donizetti "L'elisir d'amore" ACT I Ending

ドニゼッティのオペラ「愛の妙薬」の第一幕の終わり。全員が浮かれ騒いでいる中で、主人公のネモリーノだけが焦っているという場面。ネモリーノはいかさま薬屋のドゥルカマーラ「博士」から買った(偽の)惚れ薬が効果をあらわさない内に、思いをかけているアディーナを他人に取られては大変と"dottore, pietà" (博士、助けて)と叫ぶ。

モリーノのこの言葉だけが、Eb Majorの曲の中で、Fb(=E)で歌われる。もちろん、みんな大好きナポリの6由来の音であるが、和音にすらなっておらず単音で、応援してくれるのはクラリネットファゴット、ホルン、トランペットだけである。孤立無援な感じがよく演出されている。

 

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2020年2月「神田佳子と仲間たちによる打楽器作品展」動画公開

日本作曲家協議会ニューカマーズ(新入会員)演奏会2019と2020の録画が公開されました。2020年に拙作"Rainfall Shuffle"も含まれております。

2020年演奏会(「神田佳子と仲間たちによる打楽器作品展」)の再生リストはこちら

(同演奏会の感想)

日本の作曲家2020Aプログラム「神田佳子と仲間たちによる打楽器作品展」、川島素晴さんの比類なきプロデュース力、神田佳子さんとそのお仲間の高い音楽性が、空前といってよい驚くべき演奏会を実現させたと感じています。

一曲目、中辻作品は膜製打楽器のきっぱりした響きを中心に、緊密で堅固な構成をもって、演奏会の冒頭を飾りました。つづく永野作品は、抑制された表現で繊細な音の美を提示されました。形式的にも安定して聞くことのできるものでした。

深澤作品はジャンベカホンという簡素な編成で2者の対立・対話を面白く聞きました。打楽器の楽しさの根源に触れさせていただいた気がします。

山田作品はテノールを迎えてのストーリー性のあるものですが、いつもながらその音楽的な技量の確かさに瞠目させられます。フルサイズのマリンバヴィブラフォンを縦横に駆使した永野仁美さんの見事な演奏も記憶に残ります。

意表をついた白岩作品。チャイコフスキーが6番シンフォニー中で一回だけならした銅鑼を、ここでは二人の奏者がほとんど格闘技のように扱って華麗な音響を繰り広げました。打楽器の可能性が無限であることをこれほど端的に示した作品も少ないのではないでしょうか。

伊藤作品は種々の特殊奏法を使いながら、その必然性に説得力があり、細かい表情やタイミングの変化で聴衆を引き付けることに成功していたと思います。

最後に拙作("Rainfall Shuffle")についてですが、ほぼ作曲者として理想に近い演奏をしていただき、感謝に堪えません。このメンバーでなければ不可能な演奏だったと思います。ドラムスを使い、現代音楽の語彙と「ポピュラー・ミュージック」のテクスチュアを合わせてさらに深みのある面白さを目指すという意図は、この作品では残念ながら途半ば、いわば某先生が的確に指摘されたように「煮え切らないもの」であったかと思います。この作品にとどまらず、これを重要な一つの手がかりとして、次の挑戦をしてみたいと考えております。この演奏会を可能にしてくださったすべての関係者の方々に感謝します。

 

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Ravel "Bolero" last 15 bars

云わずとしれたラヴェルボレロであるが、ストイックにC G のバスの上で延々演奏して、最後に爆発して、しかしまたC Gに戻って終わるという様式美を備えている。ボレロの最後の部分を調べてみる。音はこちら

 

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最後のB旋律が終わるところ、321小節目から模式的にまとめて書いてみた。ここの旋法はなんていうんですかね。ミクソリディアン♭6とでもいうのでしょうか。326小節目にいたって、ついに反乱は起きます。3拍目の裏に輝かしいEの三和音が鳴り響き、327小節目からEとBをバスに、今度はEのミクソリディアン♭6ですかね。

 

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332小節目で、ちょっとEフリジアンを響かせて、またEミクソリディアン♭6に戻って、335小節目でC Gの繰り返しに戻ります。ここで、緑の四角で囲んだ音型はソプラニーノサックス(なぜかF管)、テナーサックス、トロンボーンで演奏されるのだが、ここだけのためのラヴェルの発明でしょうかねぇ。Caug>Bmの繰り返しに聞こえますが、豊かな響きとなっています。そして、

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最後はCフリジアンの下降する旋律と反行する半音階で曲を閉じます。

 

Haydn Symphony No.93 Movt. 1

ハイドンも頑張って対位法的な書法を取ることがある(あまり長いものはないが)

93番交響曲の第1楽章から次のようなパッセージ。時々こういう部分があるのは大変効果的である。

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rは掛留音、aとしたのは倚音だが(赤の枠で囲んだもの)バッハはあまりこういうことは書かないと思う。弱拍上の半音下からのアプローチ。バッハが書くとしたら強拍上に置くのではないか。音はこちら

 

 

Retardés 掛留音

ヒマなので、掛留音の種類を数え上げてみた。IIIとVIIの和音を考えず、また短調における上行する導音の掛留を考えなければ、ざっとこの17種類ではないかと思う。

I から II へ 2種類

I から IV へ 1種類

I から V へ 1種類

II から I へ 2種類

II から V へ 1種類

II から VI へ 1種類

IV から V へ 2種類

IV から I へ 1種類

V7 から I へ 2種類

V7 から VI へ 1種類

VI から V へ 2種類

VIから IV へ 1種類

 

 

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