某所で夏にちなんだクラシックの曲という話題があったのでこの曲を思い出した。
三善晃さんのオーケストラ曲はどれも一筋縄ではいかない。大胆でフレキシブルな楽想に、あくまでも精密緻密なオーケストレーションが施されており、スコアを眺めていてもこれを克服して音にする指揮者は大変だと思わされる。
この曲も、全音から楽譜が出版されていて、A4縦版で大変扱いやすいのだが、なにしろ46段の五線紙に浄書とはいえ手書きで書かれているものをこの大きさで見るのは、特に老眼にとってはきつい。
サブタイトルに宗左近の句(というのか)「現よ 明るいわたしの墓よ」とついている。三善・宗コンビということになれば、先の大戦に関わる芸術ということになる。どちらも近親の方を自ら救い得なかったという痛烈な思いを常に口にしておられる。
この曲も8分ほどの短い曲なのだが、その密度はすさまじい。とにかく取っ掛かりとして、クライマックスの練習番号13からの9小節を見てみたい。
大オーケストラであるので、分析のためにまず、木管・金管・弦とわけてシンプルに概念図のような楽譜を作ってみた。多く音をとりもらしているが(特に打楽器とハープ、ピアノ)大雑把に曲を把握するためなのでお許しいただきたい。
こうやってまとめてみると、構造が多少なりとも見えてくる。ざっと4つの要素からなっているといってよいと思う。まず、ヴァイオリンとビオラ、ピアノ、木琴などで演奏される8分音符の流れであり、シャープ系の音を多用して、コンスタントに刻まれていく。完全4度を二つ重ねた3つのパートが並行的に動く。
次が、木管とトランペットを中心にした16分音符三連符のパルスである。これは和声の充填をおこなっている管楽器とともに、臨時記号なしのD G C F A という和音を中心にしている。
あとはバスを構成する音形で、Cと低いF#が繰り返される。ティンパニもほぼこれを補強する。譜面(ふづら)だけなら、誤解を恐れずにいえばストラヴィンスキーっぽい。
一筋縄でいかないのが、たとえば上の8分の4になる小節の音の扱いである。色彩的でありフレキシブルである。そのあとティンパニと大太鼓、鈴のトレモロによる大クレッシェンドがあってFFFFの強奏により曲は頂点に至る。この和音も複雑だ。最低音のF#の上にC G C# Eb F B D G# E これで10音、残りの2音、A BbのうちBbはすぐ次の16分音符で出てくるので、登場しないのはAだけである。実はこのAはずっとトランペットのトップで強調されていた音である。