ワルキューレの3幕終わり近くにあらわれる、いかにもワーグナーな進行。
ラモーの「鳥のさえずり」の一部である。基本的に5度進行の連続ではあるのだが、途中調性を見失うくらい自由に転調していっており、リズム的にも大変面白い。rは掛留音、七としたのは7度音だが、掛留ではなく順次進行で出てきたりする。
これがなかなか一筋縄ではいかない。基本的には属音のEbから主調のAbへの5度進行なのだが、いろいろ紆余曲折を経る。
2小節目の3拍目は見かけ上E7だが、解釈としてはBb7b5の主音が抜けた和音ということになろうか。3-4小節目の繰り返し音型は倚音を取り去ればEbの和音であるが、音階的には Ab Bb Cb D Eb Fb G Abとなり、Abマイナーに2箇所増2度を含む民族調の音階となっている。
5小節目冒頭は、Fbの和音をEbに乗せた形で緊張感が高い。6小節目の3拍目はEb7b9から主音のEbを抜いた形でこれが全音上のFbに解決する。
7-8小節目は3-4小節目と形は似ているがここでは増2度を含まない、Abマイナーの自然音階となっている。
9小節目冒頭でやっとF7/Eb という比較的クリアな響きとなり、Ebの低音を保持したまま、11小節目でBb7/Eb 、13小節目冒頭でやっと属和音Eb7が完全な形で姿を現す。
岩里祐穂・作詞、布袋寅泰・作曲、今井美樹の歌う「ひまわり」。一瞬、「あれ」と思う転調がある。
捕えてみれば我が子なり、ポップスの王道、I7からIV度への展開なのだが、ここでの工夫はそのIV度がマイナーになっていること。言い換えれば、A7からDm7でこれ自体はなんの変哲もないV7-iなのだが、文脈としては、F#minor から A major に終止して、それが、Cmajor (あるいはA minor)のII度に移行することで、短三度上への転調を成し遂げているのがフシギ感の原因であろうと思われる。
A minorからもとのF# minorに戻るところは、E7 F#m という、クラシックでいうところの「偽終止」の形(属七からバスが一音上がって短三和音に解決)になっています。
F# minor > A Major > C Major > A minor > F# minor