Jun Yamamoto音楽を語る

Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい https://jun-yamamoto.wixsite.com/jun-yamamoto

"Dirty Chords" in "Neo-Soul" music?

YouTubeには大量の音楽関係のレッスンビデオがあって、大変参考になるのだが、中にはこれで客を釣って本編のビデオを売って商売にしようというものもある、あるいはそれが主なようだ。次のビデオの一部分を勉強のために書き起こしてみた。

youtu.be

ほんの一部分なので営業妨害にはならないだろうと、思う。音はこちら

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ビデオでは5-6小節目のように弾いているが、5小節目の二つ目の和音はいかにも響きが悪い。おそらくここは7-8小節目に示したように、間のコードトーンを埋めてクラスターにすればそれらしくなるので、ちょっとしたミスじゃないかと思う。

結論から言うと、スケールを想定して、中音域にクラスター、下と上は適度にばらしてスケールトーンを弾くことと、途中でちょっと遠い調を混ぜること、だろうか。「遠い調」がここでは白鍵ばかりになっているが、この人anykeyでこれができるんだろうか?おそらく Robert Glasperならできるような気がするけど。

 

Schumann Dichterliebe 1. "Im Wunderschönen Monat Mai"

5月ですな。日本のGWはいい時期に持ってきたものです。意図的なものかどうかわかりませんが、一番いい季節。風薫る五月であります。もっとも今年は異常気象で4月から暑かったですねぇ。地球温暖化のせいかどうかはわかりませんが、少なくとも東京はこの50年でたしかに暑くなっているように感じます。

さて、シューマンは歌曲集「詩人の恋」第一曲「美しき五月に」であります。

名曲ですね。シューマンのインスピレーションかくや!というものであります。

最初のC#が先取音で、Bm/D-C#7というF# minor の IV-V の形が繰り返され、丸で囲んだふんだんに与えられた倚音が陰影を与えます。rとしたのは掛留音です。これだけで大発明。一曲できてしまったようなものですね。

歌が入って5小節目で本来のA dur の終止がきます。同じことを繰り返して確保します。

そして、9小節目のEm/G。ここはb minor でしょうね。b minor のiv-V-i のカデンツで、次にd moll とみせて実は D dur という形でもう一度盛り上げていきます。

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youtu.be

 

 

Rob Araujo solo analyzed by Aimee Nolte

畏友Kさんに教えてもらった動画。Rob Araujoのソロを Aimee Nolteさんが分析しているものです。

The Future Of Jazz: How To Take A Neo Soul Solo

太っ腹にも、コード進行(これはMac Ayres氏がsoundcloudに上げたもの)と、Araujo氏のソロのコピーが出てくるので、フィナーレで浄書してみました。音はこちら

コードの方は流行のNeo-Soul風。ソロはRobert Glasper風のヒップなものですが、スケールアウトの仕方なんかは、とっぱずれたトライアドを持ってくるとか、ハンコック先生のものとそんなに変わらないように思うのですが、ノリがちがうからでしょうね、聴いた感じはずいぶん違います。ビバップのフレーズをストレートにもってくるあたりがむしろ新しいのかも知れません。詳しくは上記のAimeeさんの解説をお聞きください。丁寧に説明しています(英語ですが)。

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Michel Legrand "You must believe in spring"

もともとルグランが映画のために書いた曲で、サウンドトラックでは「マクサンスのうた」となっている。ジャズ好きにはビル・エヴァンスの名演の方が馴染み深いだろうと思うが、要はII-Vの繰り返しで、特にこれという工夫はない。

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曲全体は(この譜面では)一応C minorということになってるが、前奏はC minor なんだが、歌は突然B minor から始まる。ワンフレーズを三度上の並行長調(D Major)で繰り返し、短くした動機でさらに三度上の短調(F# minor)、長二度下がって短調(E minor)、さらに長二度下がって長調(D Major)。これが、いわばA部分で、これを繰り返すが、二度目はF# minorのあと、短二度下がって、半音違いのF minor に行くのよねー。

そこから前回同様長二度下がるので、当然ながら半音上のEb Majorへ。そのあと並行短調のC minorで、もう一度もどってEb Major へ。その後、前半と同様に、G minor, F minor, Eb Major という二度ずつさがるのをやって、最後並行短調のC minorで終わる。

メロディーが不自然にならないように工夫はしてあるものの、全部おんなじ。サビらしいサビもない。しいて言えば、二度目にF# minorからF minorに行くところがトリックではあるのだが、これ、あえて半音にする意味あっただろうか。

そこで、原曲(オリジナルサウンドトラック)にあたってみた。もともとのは、エヴァンス版とかなり違う。変態的なのは同じなのだが、下記のようになっていた。

(A) Dm7b5 G7 Cm7 AbM7 Fm7 Bb7 EbM7 -
Am7b5 D7 Gm7b5 C7 Fm7 Bb7 EbM7 Db7

ここまでがA部分で、これを繰り返す。

(A') Dm7b5 G7 Cm7 AbM7 Fm7 Bb7 EbM7 -
Am7b5 D7 Gm7b5 C7 Fm7 Bb7 EbM7 Dm7b5

最後だけ、バスをDにおいておいて、次の部分。これも基本的には繰り返しなのだが、半音低い調で始まる。

(B) C#7b5 F#7 Bm GM7 Em7 A7 DM7 -

つぎがトリッキーなところで、半音ずつ三回下がってくるという荒技をかます。

G#m7b5 C#7 Gm7b5 C7 F#m7b5 B7 EM7 D7

で、また繰り返しなのだが今度は最初の調の半音上(直前の部分の全音上)になる。

(C)Ebm7b5 Ab7 C#m7 AM7 F#m7 B7 EM7
Bbm7b5 Eb7 Abm7b5 Db7 F#m7 B7 EM7 D7

その後、最初の調にもどり、(A)(A')と繰り返して、次は半音ずつ三回をやらない。
(B) C#7b5 F#7 Bm GM7 Em7 A7 DM7 -
G#m7b5 C#7 F#m7b5 B7

で、エンディング。

C#m7b5 F#7 Bm

ということは、あんまりもとの調にもどって終わるとかいうことは気にしてないのね。

 

Ravel "Le tombeau de Couperin" No.2 Fugue

ラヴェルクープランの墓はどこをとっても発見の泉なのだが、この2曲目のフーガはどうも影が薄い(当社比)。美しいのは間違いないのだが、「フーガ」といわれたときに「これ、フーガかぁ?」という気持ちがぬぐえない。実際、オーケストラ版には入ってない。やっぱり「こいつはちょっとな」という気がしたのではないかなぁ。

ゆる~く分析してみる。Sが主唱、Rが応唱、CSは対唱、変形されているもの、短縮されているものにはダッシュをつけた。反行形には(inv.)としてある。コードネームを一応付してみたが、いわばモードで書かれているのであまり意味はない。

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バッハ様式あるいは厳格書法のフーガとは全く違う。解決しない7度音が平気で出てくるし、かなり注意深く避けられてはいるが、四六の和音、並行5度も出てくる。また、倚音だらけである。

形としては、主唱があり、属調で応唱があり、それぞれに対唱が伴っており、フーガの体裁は整えてある。特に対唱が大活躍している。しかしながら、和声進行がいわばモード的(旋法的)で、短調の部分でも導音が半音上がらなかったり、いわゆる機能和声的な部分が少ないので、ふわふわとたゆたい、あまり前へ前へという進行する感じに欠けている。逆にいえばそれが魅力である。

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30小節目から、バスにhが引っ張られて、大ドミナントであるが、ドミナント感、薄くないですか?何しろ、e moll のドミナントたる所以の導音 dis が全然出てこないんだもん。(厳密には30小節の頭にあるけどそもそも解決しないし、下降していつの間にかdになってしまう)

39小節目の頭には主唱が反行形で一拍おきのカノンになったり、いろいろ芸をしているのだが、どうもキャラが立たないように思う。

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終結に向けて、主唱、対唱、それぞれの反行型が入り乱れて、半拍遅れで入ったり、最後なんかは、三声すべてが主唱で半拍おきにカノンになるという大技まで出ているのだが、どうも対位法感が薄い。うーみゅ。

 

Mozart Piano Concerto No. 26 1st Movement

モーツァルトの26番のピアノコンチェルトの第一楽章の178小節目に、ちょっと変わった響きの処理がある。赤で囲んだ部分の、DとCの長二度でのぶつかりが面白いのだが、これはどう考えたらいいのか。

結論としては、ここは本来イ長調で、3拍目はB7で、これはイ長調のドッペルドミナントだが、これがdis が d に滑り込んで普通の2度の和音(Bm)になり、Cの音は並行短調イ短調から借用してきた倚音ってことで、手を打ちませんか(何が

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