Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい http://jun.la.coocan.jp

Canon at unison

同度のミニカノン、やっとできました。同度のカノンは難しい。一応ウロボロスタイプになってます(最後まで忠実なカノンにしてある)。ソプラノをアルトが追いかけ、バスは自由声部です。音はこちら

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Bach Goldberg Variations 3. Canone all'Unisono

同度のカノンは作りにくい。「カエルのうた」とか"Row Row Row Your Boat"式の和音が変わらないようなものはともかくとして、対位法的なカノンを書くのは難しい。

大バッハはゴールトベルク変奏曲で、同度のカノン(第3変奏)とオクターブのカノン(第24変奏)を書いており、いずれも見事なものであるが、それにしてもさすがの大バッハもちょっと調子が狂っている感は否めない。特に同度のカノンにおいてそうである。第3変奏の冒頭部分を示す。

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原理的に、同じ旋律を同じ高さで同じスケールで繰り返すのであるから、おのずと同じような和声進行を余儀なくされるというのは当然のことであるが、それでもバッハはIをIIIやVIで置き換えるなどして変化を与えている。

あまり繰り返しが目立たないように絶妙の工夫が施されているのだが、それにしても、正書法からいって「間違い」とは言い切れないものの、いろいろと無理なところが出てきてしまっているように思う。四角あるいは丸で囲んだところは、普通ならこうは書かないだろうと思われるところである。

強拍にくる四六の配置、響きの悪い経過音(長7度や短9度でかすっていくのだがかすりかたがうまくないもの)、厳格書法では許されない倚音、あまり響きがいいとは思えない並行4度、不自然な跳躍、などなど。バッハもそれがわかっているから、自由声部であるバスを16分音符の速い流れにして最大限の自由度を確保しようとしたのだと思われる。また、バスをかなり低い位置にとどめて、上2声部との距離をとっている。天才バッハの苦労が見られる希な例ではなかろうかと思う。(あくまで個人の見解です)

Chopin Étude Op. 10, No. 12

みんな大好きショパンの「革命のエチュード」であります。84小節のドラマ。実際は革命とはなんの関係もないらしいですけど。

左手の16分音符は、ほぼスケールか半音でのアプローチで出来ているので理論的にはそう難しいところはないと思います。

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非和声音に赤丸をつけました。倚音か刺繍音になっていますね。順番に和声の分析をします。

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8小節の前奏をおいて、9小節目からテーマ。7小節目に青で印をしたのは、属和音(G7)上に出てくるBb(導音のBと半音でぶつかる自然短音階の第7音)ですが、この曲、というかショパンには頻出します。ポピュラーで言えば#9th(?)…かなぁ。

主調のC minorを確立したあと、14小節目にドッペル・ドミナントが出て、ここから調性が動き始めます。

15小節目の丸をつけたAの音ですね。これが効きますね。倚音なんでしょうけど、本来バスのBの上にD-G-Dという長三和音の第一転回形になるところを、GではなくAにしたことで、この響きですよ。さすがショパン。次のG-D-Gが出てきて並行5度かつ並行8度ですよ。ざまあみろって感じですよね。違いますか、そうですか。

16小節目に軽く4度調のF Major F minorを回って主調C minorにもどり、テーマを繰り返します。

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24小節目にバスはCに置いたまま、F7すなわちIV7の和音から7度調のBbへ向かいます。27-28小節でBb Majorに全終止しますが、28小節で既に半音の連続で調性をあいまいにして、29小節目はG#mの和音です。Ab minorと考えれば主調の6度上の短調ということになります。ここから、G#m D#m F#m C#m  G#7(Ab7)を経て、35小節目でC7をはっきり出してF minorへ。 

 これ、何かに似てると思いましたが、Bm F#m A E G D (移調ドでラミソレ ファド)の「ホテル・カリフォルニア進行」にどことなく似てませんか?似てませんか、そうですか。

37小節目からF minorですが、すぐ6度調のDbになりDm7b5-を経て長いG7=主調C minorの属和音を引っ張って49小節目に主調のC minorにもどってテーマが再現します。

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テーマの再現は多少フェイクはあるものの64小節目のCdim7までは同じ形ですが、最初はドッペルドミナントとして扱ったCdim7から今度はGb/Dbという荒技がでます。

 

 

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この後77小節目には主調C minor で全終止するのですが、70小節目で属和音Gに到達するまで少々込み入った転調を繰り返します。この部分の進行を簡単にまとめると次のようになります。

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 65小節目ではC⇒Dbという半音上行するバスの上で、67小節目ではDb⇒Cbという全音下行、69小節目ではCb⇒Bbという半音下行するバスの上で、それぞれ減七和音から四六の和音へという進行ですが、減七の和音が出てくれば何でもアリねというような雑なことではなく(自戒)、音楽的かつ自然かつ斬新な和音の使い方だと思います。

71小節目は主和音Cm を通りますが、次の72小節目でDb/Fですが、これはナポリの6度ですね。

77小節目は全曲の全終止ですが、一応オクターブでCは鳴っているものの、DbとBbとEが聞こえて、C7b9の趣があります。バッハのフーガの終りに出てくるやつ。

あとは型どおり、IV-IVm IVm6 IVm6b5 と並ぶのですが、面白いのは最後までバスをCの保続音にせず、83小節目でバスにFを持ってきているところじゃないかと思います。これがために、最後の主和音(ピカルディ終止 CmではなくCで終わる)が、まるで属和音のように響いて、何か完全に終わっていないような感じを残します。これもショパンのたくらみではないかと思うのですがいかがでしょうか。

 

 

Miniature Vortex Canon

大バッハには足下にも及ばないが、音楽の捧げ物にある、無限上昇カノンを真似して、小さなモデルのようなカノンを作ってみた。大バッハに敬意を表して、三声でソプラノが自由声部、下二声がカノンになる形を踏襲した。バッハのものは8小節もあって、長二度ずつ上昇していくが、私のトライアルは気が短いのでたった4小節で長三度ずつ上がっていく。

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下の段はヘ音記号で読めばバスになり、ハ音記号(テノール記号)で読めばテノールになる。ただし、テノールは一小節遅れでスタートするものとする。これもバッハの形に従っており、最初を主調の分散和音で始めるのも同じである。

これをスコアに展開すると次のようになる。(テノールは一オクターブあげてアルトでにした)パイプオルガンの音で再生した。最初へ長調、次にイ長調、次が変二長調嬰ハ長調)と長三度ずつあがっていき4回目には一オクターブ上でヘ長調になるのだが、高すぎてオルガンの音域を超えてしまっている。音はこちら

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J. S. Bach The Music Offering Canon 5 a 2

音楽の捧げもの」から5度のカノン。上声はフリードリッヒ大王のテーマの変形で、その下にニ声の5度のカノンが形成される。バッハが書いたのは下の譜面だけで、一種の謎かけになっている。

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下の段に二つの音部記号が書かれており、最初のヘ音記号はあそのまま上声と同時に演奏し、1小節遅れて、ハ音記号(テノール記号)にしたがって演奏すると、見事にカノンになるという趣向である。テノール記号の方は最初はト短調になり、臨時記号を読み替えないといけない部分はあるが、厳密なカノンになっている。これを書き下すと次のようになる。上声の赤丸で囲んだのが大王のテーマに使われている音である。(音はこちら

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赤で線を引いたところが、ヘ音記号による先行声部であり、青の部分があとから入ってくる5度上の声部である。たった8小節だが、これは並大抵の仕事ではない。この中に6箇所も掛留を含み(7度音を加えれば7箇所)、とにかく音楽的に美しい。

さらに、このカノンは一回り演奏すると、全音高いニ短調の属和音で終止し、そのまま続けて、全音高いニ短調で続けることができる。お察しの通り、それを繰り返せば、6回で一オクターブ上になり、さらに永遠に上昇していくことができる。バッハはフリードリッヒ大王の栄光がいやます高みに上るようにとお世辞を添えることを忘れなかった。

Tchaikovsky Symphony No.5 2nd Movt.

みんな大好きチャイコフスキーの第5交響曲の第二楽章。49小節目からのひとくだりですが、ここだけでもアイデアが豊富に詰まっています。音はこちら

例によって、主調のDから下降するバスラインは8小節めの頭までひたすら下降していき、次は2小節これを取り返すように上昇する。

ざっくりニ長調ではあるのだが、53小節目から54小節目はホ長調っぽく、そのあとロ短調っぽくなって、56小節目の頭でB minorの四六の和音が置かれる。その後、主題の頭の部分を繰り返してニ長調主和音の四六の和音に至る。

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a としたのは倚音だが、51小節目の後半から55小節目まで半音ずつ上昇するメロディ全て倚音に飾られている。54小節目までは「なるほど」と思って聞いているのだが、チャイコフスキーのすごいのはもう一小節ダメ押しをするところですね。ここ、本当に感動する。

55小節目と58小節目の青の枠で囲んだ部分の和音進行は今やクリシェになっていると思いますが、極めて効果的。

56小節目から59小節目の四六の和音にいたるところは、じりじりと後ずさりするような弱進行の連続になっています。A7はDにもBmにも解決せずGに行ってしまう。GはF#に、F#7はEmにという形です。

 

Schönberg Kammersymphonie Nr. 1 op.9

シェーンベルクの室内交響曲は前にも齧ったが、もう一度。練習番号77、viel langsamerになるところ。

この曲全体が、完全4度の積み重ね和音のスタディといった趣ですが、ここでは完全4度重ね和音を通常の3度重ね和音に接続するという例を見ることができます。音はこちら

 

 

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完全4度の積み重ね和音をしつこく提示したあと、譜例の8小節目でFに、14小節目ではGの長三和音に解決しています。

明らかに調性的扱いをしているこの部分の仕掛けは次のようだと考えます。

7小節目の4拍目は単純で、4度重ね和音の各声部を半音ないし一音動かすことでFのドミナントに持ち込んでいます。骨格としてはC7(Fの属和音)が聞こえます。8小節目ではFの長三和音の3度音Aに対し、上限から掛留音が解決します。(b → a , gis → a)

12-13小節目は明らかにC上の属七和音だと思いますが、ここへ到達するために直前にGの三和音を置き、9小節目の4拍目にはこれに対するD上の属7和音が用意されていると考えました。これも完全4度和音の各音を少しずつずらすことによって滑り込んでいます。(dis→ d  f→ fis b→ a、g →fis cは動かない)そのあと、Bm7 Gm を経てG さらに、5度進行でC7 に達します。

この部分はトリッキーで、バスはCに留まって、その上でGaug F#7 と動きます。最後はGの長三和音に落ち着きますが、弱進行とみるか、F#7b5の偽終止とみるか。弱進行なんですしょうね、ここは。