Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい http://jun.la.coocan.jp

Mozart Piano Sonata K281 Movt. 2

ここのダイナミクスは悩むところですね。手書き稿の二段目、1小節目にフォルテ、なぜか4小節目にピアノの指定がある。5小節目にピアノならまだわかるのだが。しかも右手は明らかに4小節目にピアノが書いてあるが、左手は小節の最後にかかっていて、かならずしも明瞭でない。

モーツァルト本人に聞いたら軽く「ごめん、間違えた」って言われそうな気もするが。

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Mozart Piano Sonata K280 F dur Movt. 1

モーツァルトにケチつけ、その2。

ヘ長調ピアノソナタK280の第一楽章だが、これもモーツァルトの耳がよすぎるせいなのではないかと思うのだが…17小節目から(音はこちら)。

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19小節目、21小節目の赤で囲んだ部分が気になる。とりあえず4声体にして、適当な和声付けを検討する。音はこちら

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最適解かどうかはともかく、これならそれほど気にならないと思うので、オリジナルにはめ込んでみた。音はこちら

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同音反復ができたりしてかっこ悪いが、少なくともオリジナルの気持ち悪さは回避できたように思う。

再現部での和声処理はもっとすっきりしていてこの気持ち悪さはない。音はこちら

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(追記)作曲家のD・K先生から(いつもありがとうございます)19・21小節の三拍目はバスにそれぞれDとBbを持たせて次の小節で7度の掛留にしたらどうかというアドバイスをいただき、いろいろ検討の結果、こんな感じに。音はこちら

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Franck Violin Sonata 1st Movt.

超有名なフランクのヴァイオリンソナタ。第一楽章の第二主題。そもそも第一主題はさらっとした9度の和音の分散和音。第二主題は少々手がこんでいる。

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要は、繰り返される赤枠で囲んだ和声進行が発明である。V7から長三度下の長三和音の第一転回形にバスを動かさずにつなげるという、それだけのことなのだが、大変効果的である。3小節目は少々例外的だが、ほぼ5回同じ形を繰り返して第二主題を印象付けている。音の性格が非常にはっきりしているために、パクり難いのが難点である。音はこちら

 

The Scale of Orpheus (奥泉光「鳥類学者のファンタジア」から)

奥泉光さんの「鳥類学者のファンタジア」は大変面白いファンタジー小説である。

音楽も物語の主要なテーマであり(ちょっとネタバレだが)「オルフェウスの音階」という一種の音列が登場する。

これは弦なり板なりの発音体の長さをフィボナッチ数列に従って配列することによって得られる音階である。たとえば、フィボナッチ数列の第一項である1をピアノの中央ド(523.251Hz)においてみる。そして、発音体の長さがフィボナッチ数列に従うように(1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, ...)に延ばしていくと、その発する音の高さはどうなるかということを調べてみる。

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もちろん仮想の発音体の長さはどんどん長くなるので音の高さはどんどん低くなっていく。また、12音平均律に従わないのも当然であるので、12音平均率に当てはめることはできず、若干高くなったり低くなったりする。それを第9項まで調べてみたのが上の図である。

このままでは見にくいので、奥泉さんにしたがって、オクターブを調整し、中央ドから上に向かって上行するように並べてみると次のようになる。

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上段が私が試算したもので、下段は「鳥類学者のファンタジア」単行本に載っている音列である。どうして違ってしまったのかはわからない。ひょっとすると私の計算が間違っているか、逆に奥泉さんの計算が間違っているのかもしれない。

せっかくここまで計算したので、どんな音がするのか聞いてみたい。

最初の三つの音はおなじなので、3つ目からはじめて順に鳴らしていって和音をならしてみた。こんな感じ。あっけないので3回繰り返してみた。実はこれは結構大変で、SONARのTTS-1のピアノの音なのだが、数セント違う音高を出すために、ピッチホイールの値を計算してそれぞれ別のチャンネルに適用して、音の高さを合わせている。苦労した割にはどうってことないか。

 

 

Mozart Piano Sonatas K333 and K533

吉田秀和さんの「モーツァルト」の中で、モーツァルトにおける「バッハ前」「バッハ後」という話があって、K333とK533を比較している。どちらも第2楽章に出てくる対位法的な部分なのだが、まずK333の方。

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吉田さんも書いているが、ここではモーツァルトが自分の「よすぎる耳」をもてあましているように感じられる。譜例冒頭の前はBb7(変ホ長調の属和音)なのだが、E F# Aという冒頭の和音はいかにも唐突だし、その後も音が「薄い」。やりたいことはあるのだが、手がついていっていない感じがある。(この辺で世のモーツァルトファンのほぼ80%を敵に回したな)

つづいてK533の方。

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譜例の2小節目A/C#のコードから突然Fで入るのもむちゃだが、そこは置いておくとして、確かにK333に比べればはるかに豊かな書法にはなっているが、いかにも作り物めいた感じを受けるのは私だけだろうか(だけだろうな。いいんだけどさ)
これだけ凝ったことをやっておいて、「最後はこれですか」という感じなのですよね。このF7の和音がね。

以上、死んじゃってるので反論できないモーツァルトさんへのけちつけでした。

 

Toshio Nakagawa "Passacaglia per ut re ut fa mi"

中川俊郎先生60歳のバースデー・コンサートにて初演された中川先生ご自身の新作「ut re ut fa mi によるパッサカリア」ですが、当日のプログラム表紙に冒頭部分の楽譜があり「これは不採用分です」ということではありましたが、曲を聴く限り冒頭部分はほぼこの楽譜によるものと思われるので、勉強させていただきました。(ダイナミクスがついていますが省略しています)音はこちらf:id:jun_yamamoto:20180604130428p:plain

もともと数字付バスが書かれているのだが、慣れないので例によってアメリカ式でコードネームを付し、「こう解釈することもできるかな~」程度で調性を当てはめてみました。

本来へ長調であるべき"Happy Birthday"の旋律、ドレドファミーを無理やりハ短調と解釈したところが先生の面目躍如ですね。

のっけからDが出てきますが、この響きは聞きなれた短調におけるドッペルドミナントで、教会風です。

1小節目3拍目にしてIIb、すなわちナポリ六度登場。本来であれば、このDbは次にG7が来てCmに解決するところですが、もともと無理なのでバスはEナチュラルに行ってしまい、お約束どおりにはいかない。とりあえず減七にいきます。ここでAbを引っ張って掛留としてありますね。

次にAb on C に行くのですが、その前のEの上の和音は一応ドミナントのEb7(b9)の根音抜きということかなぁ。

Ab から Cの音を保持してAmにいく。3小節目のバスのD-Cは、A minorのIV度III度と解釈されたわけですね。で、4小節目の頭はバスがF、その前ののGはC7の5度音となって、F7へ。

かなりアクロバティックになってきましたが、次は5小節目の頭のバスのCをD7の7度音と解釈して、その前にIIb (ナポリ六度)アタック。

5小節目の2拍目3拍目の扱いは理論を超えて、しかし禁則は冒さないという絶妙のタッチですね。最後にソプラノが「あえてF」でバスとオクターブ。次に増二度あがるんですよね。

これは実際に聞いてみると、バスがきちんと「ハッピーバースデイ」になっているのに対し、和声がジェズアルドもかくやという進行になっていて、相当シュールです。さすがです。60歳のお誕生日おめでとうございます。

 

 

 

 

Stravinsky Symphony of Psalm 2nd Movt.

ストラヴィンスキーの「詩篇交響曲」でありますが、第二楽章の冒頭部分のフーガっぽい入り。赤色の入りに対し、青色が5度上で、続いて喜遊部があって、赤色が主調でということで一応型どおりにはなってますが、音使いは伝統的ではない。ただ、統一感が取れているのが魅力ですね。気になるのは緑で枠をつけた部分で、Cが重なってるのがスタイル的にはいまひとつのような気がするのですが。この部分は3分12秒あたりからです。f:id:jun_yamamoto:20180522010021p:plain

同じく第二楽章で次にソプラノが入ってくる部分。いずれも対位法っぽく見せてはいますがまったく伝統的な対位法とは関係ないロジックでできていることがわかります。

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この部分は5分12秒くらいからです。

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