ショスタコーヴィチの音楽を最初に聞いたのがこの5番交響曲。それはそれはショックだったですねぇ。プロコフィエフとはまた違う新鮮な調性感があり、強烈なドライブ感がある。
ショスタコーヴィチの楽譜は著作権が切れていないのでimslpでは手に入らないのですが、けちな私もさすがにこの曲のスコアは手元にあります。
第4楽章の佳境に入っていくところ、81小節目のpiù mossoから見てみます。例によって大譜表に要約してみます。(音はこちら)
トランペットが奏する印象的な旋律ですが、調性が不明です。私の耳にはAb MajorないしはBb Dorianに聞こえますが、一緒に鳴っている16分音符の波打つような音形とはまるで別の調性感があって、簡単に言えばポリトーナルということなんでしょうが、なんとも不思議です。XをつけたFb はEb-Fb-Ebという刺繍音と考えられるかもしれませんが、6小節目のDナチュラルはAb Major の第4音が半音上がっているように聞こえます。
16分音符の音形は特に小節の冒頭で、メロディーラインを気にしていろいろ細かい芸をしていますが、もろにぶつけているところもあり、あまり統一性のある扱いとは思えません。いい悪いは別として、「書き飛ばしている」感じがあり、勢いのある筆致です。
単純化してみると、つぎのような構成になっています。下がトランペットの旋律中最初の4小節の主な音ですが、Bbを中心音と考えればBb Dorianであり、構成音はAb Majorと同じです。最後の3小節は転調していてC minorと考えたほうがいいのかもしれません。一方、16分音符の流れの音を拾ってみると上の段のようになり、およそ古典的な音階とはいえませんが、それぞれ緑の丸で囲んだ音を主要音の半音したからのアプローチの音と考えると、その右側に示したような和音だとも考えられます。あまり説得力はありませんが。いずれにせよ、主たるメロディと背景の楽想がそれぞれ違う調性のplaneにあって不思議な、かつ魅力的な音使いだと思います。
その次の部分です。
16分音符の流れはE一音に収束します。三度で下がってくるトランペットとホルン、最後はトロンボーンに引き継がれる、このラインは明らかに F MajorないしC Mixolydianといっていいと思います。この執拗に鳴り続けるEは、次の節目でAに完全解決する伏線になっている(EはAの属音)といっていいでしょう。ただ、金管の和声は古典的には動かず、B-Eという完全4度から始まって、トップの音が E-F-G-G#と上行していって、Aに解決しますが、ここの和声はB-E-F(EとFが厳しい不協和音になる), Em/B, C#(ペダルで鳴っているEと半音でぶつかる), A となっています。バスは比較的自由に動き、世界を押し広げるような感覚をもたらします。
この項、続くかもしれません。(弱気)