Jun Yamamoto音楽を語る

Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい https://jun-yamamoto.wixsite.com/jun-yamamoto

Messiaen "modes à transpositions limitées" メシアンの移調の限られた旋法について

オリヴィエ・メシアンの「移調の限られた旋法」modes à transpositions limitéesは、メシアン自身の著書「わが音楽語法」Technique de mon Langage Musical(1944)(新訳では「音楽言語の技法」)で紹介され、広く知られている。

長音階(あるいは自然短音階)は一オクターブ中7つの音が、半音を単位として2-2-1-2-2-2-1 (2-1-2-2-1-2-2)という「不揃いな」間隔で配置されているため、12の調に移調した場合、それらの構成音はそれぞれ異なる。

しかし、この間隔を適当に配置すれば、移調した時に元の音階と構成音を同じにすることが可能である。たとえば、メシアンが第1旋法と呼ぶ全音音階(C D E F# G# A#)は半音上げれば(C# D# F G A B)となるが、さらに半音上げれば(D E F# G# A# C)となりこれは最初のCから始まる音階と実質的に同じものである。

このような「対照性」をもった音階を数え上げていけば、次のようになる。

 

1.移調がそもそも不可能なもの。半音階(これは自明)

2.2半音(全音)の移調でもとにもどるもの 上にあげた第1旋法(全音音階)音の間隔は2-2-2-2-2-2

3.3半音の移調でもとにもどるもの
3-1 3-3-3-3 (C D# F# A) 減七和音
3-2 1-2-1-2-1-2-1-2 (C C# D# E F# G A A# ) メシアンの第2旋法 ジャズでいうcombination of diminished scale 2-1-2-1-2-1のパターンもあるが実質的に同じであるので省略する。

4.4半音の移調でもとにもどるもの
4-1 4-4-4  (C E G#) 増3和音
4-2 1-3-1-3-1-3 (C C# E F G# A)
4-3 1-1-2-1-1-2-1-1-2 (C C# D E F F# G# A A# )メシアンの第3旋法(メシアンは2-1-1-2-1-1-2-1-1としているが実質的に同じものである)
(註:5半音は完全4度であり、オクターブを等分しない)

5.6半音の移調でもとにもどるもの
5-1 1-1-1-1-2-1-1-1-1-2 (C C# D D# E F# G G# A A#)メシアンの第7旋法(メシアンは1-1-1-2-1-1-1-1-2-1としている)
5-2 1-1-2-2-1-1-2-2 (C C# D E F# G G# A#) メシアンの第6旋法 (メシアンは2-2-1-1-2-2-1-1としている)
5-3 1-1-1-3-1-1-1-3 (C C# D D# F# G G# A) メシアンの第4旋法 (メシアンは1-1-3-1-1-1-3-1としている)
5-4 1-2-3-1-2-3 (C C# D# F# G A)
5-5 1-3-2-1-3-2 (C D# F# G A#)
5-6 1-1-4-1-1-4 (C C# D F# G G#) メシアンの第5旋法(メシアンは1-4-1-1-4-1としている)
5-7 1-5-1-5 (C C# F# G)

f:id:jun_yamamoto:20190118161303p:plain

メシアンは5-7については4音音階になってしまうので取り上げなかったのであろう。5-4,5-5については、第2旋法から音が2つずつ欠けていると考えてこれも取り上げなかったものと思われる。

「わが音楽技法」に豊富な実作の例が挙げられているので、それで十分だが、「みどり子イエスにそそぐ20のまなざし」の第19曲が第2旋法の非常にわかりやすい応用になっているので、冒頭部分を示す。(ダイナミクスなどは省略、オリジナルとは書き方が異なる部分がある。音はこちら

この部分はF#をペダルとして、F#から始まる1-2-1-2-1-2-1-2の第2旋法(コンディミ)と、半音上、Gから始まる同じく第2旋法に基づいている。

f:id:jun_yamamoto:20190118161458p:plain

メシアンの取り上げなかった5-4の形の「旋法」で同じような書法を取るとどうなるか、上の例の4小節目に倣ってひとつ試してみた。使い方次第だろうが、やっぱりあまり面白くないようだ(笑)。(音はこちら

f:id:jun_yamamoto:20190118161519p:plain

「移調の限られた旋法」については、松平頼則「新訂 近代和声学」で扱われていたので概要は知っていたのだが、数え上げがちゃんと出来ているのか確信がなかったが、まじめに数え上げたら、さすがメシアン、大事なところはきっちり押さえていることが判明しました。

メシアンはリズムの扱いも含めて、これらの自作の原理を太っ腹にも公開してしまったおかげで、メシアン風の音楽を書くのは誰にも容易になってしまったが、逆に亜流が生まれるのを未然に防いだという見方もできるのかもしれない。