Jun Yamamoto音楽を語る

Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい https://jun-yamamoto.wixsite.com/jun-yamamoto

Saint-Saëns Carnaval of Animals "Aquarium"

動物の謝肉祭の「水族館」。これもアイデア一発の曲なのですが、そのアイデアが美しい。和声的には数パターン、旋法性のある音遣い。

Am B7(b5) Am B7(b5) Am Dm というパターンとその最後が Dになったパターン

次にこれの変形で

Am B7(b5) Am Fm/Ab G A7(b5) G E Am B7 Am D E というもの。

D-E の連結が美しいですね。

あとは減7の和音の半音進行と、Dm E7(b9) Dm E7(b9) Am というパターン。

最後はC と E を直接つなげたフレーズで A D Am E A というシークエンスからAの上で半音進行を繰り返して終わり。さらっと美しい。

f:id:jun_yamamoto:20210308132334j:plain

f:id:jun_yamamoto:20210308132355j:plain

f:id:jun_yamamoto:20210308132411j:plain

f:id:jun_yamamoto:20210308132428j:plain

f:id:jun_yamamoto:20210308132446j:plain

f:id:jun_yamamoto:20210308132502j:plain

f:id:jun_yamamoto:20210308132519j:plain

f:id:jun_yamamoto:20210308132542j:plain

 

Saint-Saëns Carnaval of Animals "Elephant"

サン=サーンスの動物の謝肉祭はさらっと書かれているところが魅力である。この「象」にしてもほんとうにさらっと書かれた感が強い。

練習番号3の前2小節、C♭(B)のバスの上にB7を載せてごく自然にBb7に達し、続いてEbの四六の和音につながる。思わずうならされる進行。

f:id:jun_yamamoto:20210308114712j:plain

f:id:jun_yamamoto:20210308114736j:plain

 

スケールの反転について

反転カノンを書いているうちに気が付いたことがある。こんなことは先達はとっくに気が付いているのだろうが…
ダイアトニックな反転は割合簡単な話でスケールの開始位置はずれるが、調性は(平行調の問題を除けば)保たれる。
一方、クロマティックに反転すると、下図のとおり、例えばハ長調の音階を反転の中心となるピヴォットの位置をC から Bまで半音ずつ変えていくと、Ab Bb C D E Gb という調が順に二回あらわれる。ここで、Dをピヴォット点にした場合は、ダイアトニックと同じ結果が得られる。(G#をピヴォット点にしてもオクターブ違いで同じである)
だから、D(一般的には移動ドでのレ)をピヴォット点にした場合はダイアトニックとクロマティックで同じ結果が得られるということになる。

f:id:jun_yamamoto:20210224175628p:plain

 

Yamamoto "6 Retrograde Canons" performed by Christian Clavère

フランスのヴァイオリニスト、Christian Clavère氏が、拙作「6つの逆行カノン」(6 Retrograde Canons)を演奏してくださいました。オリジナルには一切のダイナミクスアーティキュレーションを付していないのですが、誠に適切な解釈を施していただきました。逆行カノンは、旋律を普通に演奏したものと、終わりから演奏したものを同時に鳴らすと調和したカノンとなるもので、以前KM大先生が書いておられたのを見て真似したのが始まりです。もちろん大バッハ音楽の捧げものの中で奇跡としか思えない見事な逆行カノンを書いています。ここでは、G dur, c moll, f moll, h moll, cis moll, D dur の6つのカノンが続けて演奏されます。楽譜が表示されるので「確かに逆行しているか」を目で確かめてもいただけます。楽譜はimslpにあげておきました。Merci beaucoup, Christian!

6 Retrograde Canons (Yamamoto, Jun) - IMSLP: Free Sheet Music PDF Download

 

youtu.be

 

J. S. Bach Retrograde Canon from "A Musical Offering"

大バッハ音楽の捧げものの最初の方に出てくる逆行カノンである。同じものを最初からと最後から逆に演奏したものを合わせると調和した一曲になるというものなのだが、奇跡の19小節といってよい。次の楽譜は上段が順行、下段がおなじ旋律を終わりから逆行したものである。これを同時に演奏すると見事なカノンとなる。

f:id:jun_yamamoto:20210206131744p:plain

どうしてこれがうまく行っているのか。一小節なりの長さが一つの和音であれば、有名なパッヘルベルのカノンのように、音楽として成立させるのはそんなに難しい話ではない。問題は、掛留音を持ったり、順次進行の細かい音符を存在させてかつ和声を頻繁に変えていった場合である。

結論から言うと、ここでの8分音符の扱いは極めて精妙で、順次進行を基本としつつ、順行の場合と逆行の場合で、強拍が交替した時に「うまく行くように」作ってあるということだ。

これだけでは何のことかわからないので、例をとって説明する。

3小節目の4拍目と4小節目の1拍目に着目すると、

(1)順行では、G音が二拍続き、逆行声部はその間に、C B A B という四つの8分音符を鳴らす。前後の関係から、ここの和声は二拍ずつCmとD7(b9)(減七)と考えられるがC Bはそれぞれ和声音(c)と経過音(p)、次のA Bはそれぞれ和声音(c)と経過音(p)と解釈できる。ここで、D7(b9)においてG音は掛留音(r)の扱いである。

(2)これが逆行部分になると(15小節目の4拍目と16小節目の1拍目)、これらの8分音符は逆順の B A B C になるが、それぞれ「攻守所を替え」、最初のB Aはそれぞれ和声音(c)と刺繍音(b)になり、あとのB Cはそれぞれ和声音(c)と経過音(p)になる。

なお、順行では4-6小節目にはそれぞれ掛留音を持たせているが、さすがに逆行ではそれはできないので、13小節目の4拍目以降は、いわば一拍ずつずれた形で和声が進行するようになっている。(縦線を入れた句切れ目にそって演奏しても違和感がない)。

と、いろいろ分析して語ることはできるが、音楽はおそらく大バッハがああでもないこうでもないとひねくり回すのではなく、アイデアとともに「スポン」と生れ出たのであろう。あるいは推敲の結果かもしれないが、そのあとはキレイに拭い去られて、天才のひらめきとしか思えない作品となっている。

 

youtu.be

Tchaikovsky Piano Concerto No.1 Movt.1

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の第一楽章346小節目からピアノの両手による音階的パッセージがあるのだが、いちいち引っかかるように書かれている。要はEb G Bbにあえて言えばCbを付加した長三和音なのだが、その各構成音にそれぞれ3つの上下方向から半音でアプローチする倚音で修飾するという芸で、しかも解決音(本位音)が常に一拍目の裏に来ているという技である。

f:id:jun_yamamoto:20201230125753p:plain

youtu.be

Beethoven Cello Sonata No.5 3rd Movt.

ラヴェルはベートーベンを「あの音痴」と呼んだそうだが、確かにときどきそういわざるを得ないようなパッセージに遭遇する。5番のチェロソナタの最後のフーガだが、チェロの音色と勢いで聞かされてしまうが、相当書法は荒い。下の譜例で番号を書いたところが気になる部分であるが、一言で言うと、倚音の本位音にぶつかっていくようなところがあるのと、その本位音が倚音の上方にある場合があること、それと調性的に方向性の定まらないところがあること、そしていかにも響きが悪いところが多いことである。

下のサマリーはチェロ・パートを原則としてテノールに(所によりアルトに)配置して、他のピアノのパートは適宜分配して4声体に整えたものです。

 

f:id:jun_yamamoto:20201229152940j:plain

ここでSはフーガの主唱、Rは応唱である。とりあえず、このテーマ(主唱)ももう少しなんとかならなかったのかと思わないではいられないが…

①和音が特定できない。響きが悪い。次の小節(19)の頭もDの主和音ならそうとはっきりすべきだ。

テノールでDが待っているところへバスがC# Dと動くのはいかにも汚い。実際の演奏を聞くと勢いでごまかされてしまうが…

③ここもなにがやりたいのかわからない。G#がF#に突っ込んでいく。

④和音が不明確でかつ響きが悪い。

⑤いかにも汚い。

f:id:jun_yamamoto:20201229153551j:plain

⑥テナー(チェロ)がアルトを横切る。音色がピアノと違うので実演では気にならないが、もう少し気をつかって書けないものか。

⑦ここも調性不明確である。小節頭で示された七度音が重なっていてしかも上行し連続同度をなす。

⑧響きが悪い。

⑨の部分は41-42小節と何がしたいのか皆目わからない。⑨の次の小節(42小節目)の最後のE G B Dという和音はいったい何なのか。さらに次の小節には対斜が起きている。

⑩響きが悪く、和音の性格がはっきりしない。

⑪下から短二度でぶつかっていく倚音(経過音)

言いたいことをわかっていただくのに、すべてをピアノの音で、テンポを落とした録音を付す。

https://soundcloud.com/jun-yamamoto/lvb-cs-5-3