Jun Yamamoto音楽を語る

Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい https://jun-yamamoto.wixsite.com/jun-yamamoto

ディーター=デ=ラ=モッテの和声記号 Chord Symbols by Diether de la Motte

ディーター=デ=ラ=モッテの「大作曲家の和声」(滝井敬子・訳)では、使われている和声記号が、われわれの慣れ親しんだものとはやや異なるので面白い。

基本的には長三和音を大文字、短三和音を小文字で表し、Tが主和音、Dが属和音、Sが下属和音ということでここまではなじみやすいのだが、平行調からの借用和音については、平行短調の主和音をTpと書き(Tが主和音でpが平行調でかつ短三和音であることを表す)、平行長調の主和音をtPと書く(tが主和音でPが平行調でかつ長三和音であることを表す)さらに「対和音」というなじみのない概念が出てくるあたりで混乱してくる。

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上図までは説明の必要もないであろう。きわめてわかりやすい。

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TPは並行短調の主和音を長三和音にしたもの、tpは平行長調の主和音を短三和音にしたものだそうだ。問題はtGであるが、これは短調における主和音の三度下の和音を平行長調から借りてきたもの(この辺でややこしくなってきますね)で、簡単に言えば、A minorでE7のあとに出てくる(偽終止の)Fである。tgはそれをさらに短三和音にしたもの。snはいわずとしれたナポリの6度である(6と書かなくてもいいらしい)

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面白いのは減七和音の扱いである。モッテによれば、減七和音を属9の和音から根音を省いたものと考えるのは歴史的に正しくないという。確かに最初から根音がない形の方が普通で、9度の和音として堂々と出てくるのはロマン派以降だろう。

ここで、Dの上にsv とあるのはこの和音はDでもありSでもあるということを表しているのだそうで、vは減七和音のしるしである。簡単に言えばシレファラ♭の和音で、シレファは属和音(ドミナント=D)成分であり、(レ)ファラ♭は下属和音成分だということらしい。これがTに解決したりtに解決したりするわけである。

Dが二重になっているのはご想像通りドッペルドミナントである。(左肩にtと付けるのはおそらく短調に属するという意味か?)これはもちろんいったん属和音(ドミナント=D)に解決する。

 

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さらに減七にならないDS7の和音はC Majorで言えばBm7(b5)のこと。Dの上に7と9が載るのは普通の属9の和音である。また、4-3と書いて倚音(この本でいえば「掛留」)とその解決を表したりする。また、下に数字が来る場合はバスの音が和音の何度の音にあたるかを示すと言う。(t5と書いて、バスが5度音だったら要は四六の和音ではないかと思うが、そのあたりは冗長性であろう)

D7は普通に属七であり、S6というのはファラドのドが6度に上った和音(われわれの言葉で言えばIIの和音の第一転回形)である。

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そろそろくたびれてきたが、あとはそれほどややこしい規則はなく、数字はあくまでその属する調のスケール音をあらわすので、短調では9は短9度音であり、長調では9は長9度音である。それらを半音上げるときは<を使い下げるときは>を使う。

四六の和音はやっぱりD64と書く。これはD53を経てTないしtに解決する。

この表記法を使ってごく簡単な例を示す。ヘンデルメサイアの一節。

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現代的な表記と違うのは3小節目、バスが Bbになるところ、A7(b9)の第4転回形ではなく、あくまでこれは下属和音(サブドミナント)であり、バスはGmの3度のBb、6度のEが付加されて、かつ4度のCが上方に変位してC#になっているという表現になるらしい。このあたりは悩むところで、C#は導音と見たくなるが、ここではあくまでサブドミナントの変位なのである。