Jun Yamamoto音楽を語る

Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい https://jun-yamamoto.wixsite.com/jun-yamamoto

Ravel "Gaspard de la nuit" Movt.2 "Le gibet"

別にハロウィーンがらみということもないのですが、「絞首台」であります。

ラヴェルの「夜のガスパール」も音楽的発見の尽きせぬ泉でありますが、第二楽章の「絞首台」のほんの数小節を見てみます。音はこちら

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20小節目から。原曲はこの部分で転調するので最初の部分は変ホ短調の調号がありますが、見にくいので取っ払って、シャープ系で書き直してみました。上の三段がピアノを単純化したもの、下の大譜表は和音を整理してみたものです。

楽章全体に流れる鐘の音(Bb=A#)を除くと、この部分はgisを保続低音としたE9の和音と考えられます。2小節目の後半から半音階の動きになって、和音としてはE9とD9の交代の様相を呈します。

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ここで調号がなくなり、バスはナチュラルのGに。譜例の4小節目と5小節目の前半は大雑把にはG7ととらえられるものの、大きく広がった右手と左手が細かい表情を与えます。最初の和音は左手Gに対し、右手はE7の転回形。次はすぐに左手がE7になって右手はC#を加えてC#m7(b5)の趣。右手は下行し左手は上行しながら、細かく和音を変えて表情豊かに進行します。譜例5小節目の後半からは次のような和声進行と考えられます。

G7 C7 Gb7 Bb7 Eb7  Ab7  

これを繰り返してC#7に至ります。

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右手はラヴェルお得意の減5度+完全4度の和音で、これはジャズ、特にビル・エヴァンスあたりが上手く取り入れて吸収してしまいました。

これが半音で進行することで、バスと合わさって色彩豊かな反復進行を作り出します。

バスおよび和音 G7     C7    Gb7   Bb7    Eb7     Ab7   C#7

右手の最高音  #9th  13th  9th     13th    9th      13th   #9th

右手の中声   13th   3rd   7th     3rd     7th       3rd     7th

右手の最低音  3rd    7th    3rd     7th     3rd       7th      3rd

 

もとになった、ルイ・ベルトランの詩をあげておきます。

(庄野健・訳)

 

絞首台

    絞首台のあたりでうごめいているものは何だ?
    「ファウスト」より

これは夜陰に吹きすさぶ北風か
それとも、吊るされた罪びとの溜息か

あるいは、吊るし木の足元をやさしく覆う
苔と枯蔓に隠れてなくこおろぎか

死者の耳もとで
獲物を求めて飛びまわる蝿の羽音か

しゃれこうべにしがみついて
血のこびりついた髪に絡みつく甲虫か

それとも縊れた首のまわりに
純白のスカーフを編む蜘蛛か

かなたの城壁から鐘をうつ音が響き
罪びとの亡きがらは
夕日のなかで
ゆらりと揺れた