Jun Yamamoto音楽を語る

Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい https://jun-yamamoto.wixsite.com/jun-yamamoto

Hindemith ヒンデミットの和声解析の例

ハンフレー・セアール「20世紀の対位法」からの孫引きなのだが、ヒンデミットの和声分析の例が挙がっているので取り上げてみる。ヒンデミットが挙げている例が次の最上段の5声の和音進行で、ご本人は「恐ろしく不快な進行」だと言っているらしい。音はこちら。下の段に示されたのはヒンデミットによる各和音の「基音」ということなのだが、たとえば6番目の和音では、和音の最低音がBbであるのに、「基音」はEbになっている。これは和音中にヒンデミットの言う「良い」音程である完全4度が含まれているので、その上の音をとって「基音」と称しているようだ。完全5度があれば、下の音が「基音」だというのだが、必ずしも「基音」の5度上の音が現れるとも限らないし、この分析には首肯しがたい。そもそも伝統的な和声では5度音は省略可とされる場合も多い。

いずれにせよ、これを聴く限り、むしろ「悪くない」。現代の音楽に慣れた耳にとってはむしろ伝統的に、いわばきれいに響く。

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ヒンデミットはこれを改良するといって、次の例を挙げているが、これは改良というより、ほぼ別の和音進行だといっていいだろう。より伝統的な和声に近づけており、コードネームを振ることも容易である。音はこちら。さすがヒンデミット、なかなか美しい和声進行ではある。

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最後に、オリジナルのコード進行について、私の解釈を書いてみた。ジャズに慣れた耳には、上の3声くらいはどれもテンションに聞こえてしまうきらいがあるが、一部の音を上下入れ替えると和音の性格が明瞭になる。音はこちら

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最初の和音はEの音がいわゆるブルーノート(#9)に聞こえる。A#をBにしてしまえば、立派なC7(#9)になるのだが…。二番目の和音は明らかにBm7で、Major7のA#が上の方で鳴っていれば、不協和ではあるがそれなりに面白い和音だと思う。

3番目はいわゆる"7thb5"で、属7和音の5度音が半音下がった形で、Bb7(b5)といってもいいしE7(b5)といってもいい、よく転調に利用される和音の形である。11度になるEb(D#)もそれほど不自然ではない。

4番目については、B F A E Bb と揃っており、これはG7に聞こえる。すなわち、Bからそれぞれ、3度、7度、9度、13度、最後のBb は#9である。それでヒンデミットに習って「基音」をGとしてみた。いずれにせよ、現代では多用される和音といってよい。

5番目はどうみてもDm7 on G でしょう。5度和音といってもいい。6番目は、ちょっとずるいのだが、EとEbの上下を入れ替えてしまえばC7(#9)になるな、ということである。Abもb13であるから相性がいい。これはちょっと変えすぎかもしれない。

ヒンデミットの近代(現代)和声解釈はそのまま受け入れるのは無理だと思うが、いろいろな示唆に富んでいる。

この後、セアールは12音技法によるものを含めて現代作品の調性的な解釈という興味深い議論に入るのだが、それはまたの機会に議論したい。