ラフマニノフのおそらく最高傑作である、パガニーニの主題によるラプソディー作品43。第11変奏は、アルペジオ主体のほんの一瞬で終わる変奏なのだが、最後の部分が気になっていた。おそらくピアニストはこの部分を含め、まるっと記憶してしまうのだろうが、作曲家はおびただしい音符を書いて、いろいろ芸をしているのである。普通は超速で飛び去ってしまうので、ゆっくり鳴らした音をあげておく。
1の部分は、ハープのグリッサンドを従えて、ニ短調の属和音、すなわちAの和音を鳴らしている。左手はe g の短三度を半音ずつずらしているだけだし、右手も大したことはしていない。右手の下の声部はAとBbのトリルである。3拍目のCは次のC#への倚音だろう。
3の部分は全体としてはこれも属和音Aなのだが、いろいろと細かく修飾がなされている。右手は必ず最初の音が下方倚音で、4つ目の音に解決するようになっている。そのように解釈すると、3に示したような和音が並ぶことになる。4からはEbm F aug といったかなり離れた和音をつかって変化させている。最後のEb7はAの所謂「裏和音」であり、全体としてはAであることは揺らがない。
5からは減七の和音をつなげ、ここは調性は相当あいまいである。6の部分で短七の和音を二つだしてまた減七にもどりここも最後はEb7をおいている。音の構成はともかく、DbでなくC#で書いてあることからもあきらかにAの和音である。
8の部分は左手ではっきりAを示し、右手はほぼA音の周りを囲んでいるだけ、9の部分はE G# D F が目だっているのでなんとなくドッペルドミナントのEっぽい。そして10のAに解決する。ここでもBb (A7のb9音)を鳴らして属和音であることを示している。第12変奏はニ短調(Dm)ではじまる。