Jun Yamamoto音楽を語る

Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい https://jun-yamamoto.wixsite.com/jun-yamamoto

Canon at 7th

バッハの7度のカノンを勉強したので、自分でも書いてみようと思い立った。一応できましたがね。いろいろこれも勉強になりました。音はこちら。PDF版も一応こちらにおいておきます。

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3声で、アルトが先行し、ソプラノが7度上で同じ音形を繰り返します。バスは自由声部になっています(これがないと到底無理)。

 

バスが自由という条件でもなかなかむずかしく、3小節目のアルト4小節目のソプラノはせっかくタイで引っ張ったのにちゃんと掛留になってない。5,7,8に掛留を置けたのでまぁいいことにしました。でも、4小節目は何か芸をしないとだめだな。

後半は、本来なら属調へ長調にしてes ではなくe にした方がいいのかもしれませんが、この方が響きがやわらかいのでそのまま変ロ長調にしてあります。12小節目にアルトに掛留、

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13小節目はソプラノ・アルトの二重掛留です。16小節目頭はソプラノとバスがオクターブで一応アルトは掛留なのですが、あんまりかっこよくないです。許してくれ。17小節目、20小節目には何とか掛留をおきました。

フーガの方が自由度が高いので書きやすいですね。カノンで旋律を歌わせるのはなかなか難しい。バッハというか、あの時代の人は感覚でかけたのでしょうねぇ。

 

Bach Goldberg Variations 21. Canon at the Seventh

7度のカノン。どうやったらこういうものが書けるのかは謎だが、はっきり譜面に記されている以上、分析することは可能である。

 

3声で、上二声がカノンになっており、バスがついている。バスの半音下降に伴うハーモニーの移ろいが美しい。楽譜中、rは掛留音、pは経過音、bは刺繍音、a は倚音である。

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Em7b5はC7と考えれば、D7/F#-Dm/F-C7/E-Cm/Eb-D7という進行になる。2小節目のソプラノのDからCと、アルトのDからCの動きが並行していてちょっと気になるが、バッハなので許されるのだろう。

この曲では増三和音がところどころに顔を出して強い印象を与える。3小節目3拍目裏のEb G B という和音バスもソプラノも刺繍音であろうが、一瞬増三和音がなる。もっと顕著なのは、4小節目冒頭。ここはおそらくBbの和音中に中声が倚音としてF#をもっている(後にソプラノのGに解決する)とでも考えるのだろうか。

(追記)4小節目3拍目、内声のDは掛留音だとすれば、Cに解決しているが、Cm/Gだと四六の和音になってしまう。解決する時にはソプラノのEbが鳴り終わっているので、これはこれでいいのでしょう。(追記終り)

5小節目の1拍目裏もD F#にソプラノのBbを加えると増三和音になる。(厳密には減6度だが)5小節目の冒頭はソプラノのCは掛留音であるが、これが裏でBbに解決したとき、他の声部はすでにDの三和音に遷ってしまっているために、このBbは解決音であるとともに経過音ないし倚音という込み入った事情になっている。

 

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増三和音は7小節目の2拍目裏にも出てくる。ここでアルトがF# になって和音はD7と考えられるが、バスが順次進行でBbを通るために一瞬増三和音がなる。次の3拍目もかなりアクロバティックである。和音はEbかと思われるがすぐGが鳴らなくなるために一瞬宙に浮いたようになるが、4拍目ではっきりEbになる。8小節目の3拍目、バスの2つ目のBbの音は和音が一瞬Gmになると考えるべきか。いずれにせよここではほぼ2声になっているのであまり問題ではないが。

 

後半(9小節目以降)も半音下降進行のバスを伴う。10小節目の2拍目のアルトの入りも少々無理があるが、これは小節頭にAを補って考えればいいか。11小節目の3拍目のアルトのEbも解釈が難しい。Abの和音かと思うが、ソプラノは明らかにGの掛留音がFに解決しているので両方の顔を立てるとFm7だろうが、この7度音(Eb)は解決しないことになる。??

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13小節目3拍目のソプラノ冒頭のEのおとも無理スジだが、アルトが3度で寄り添っているので響きは問題ない。

あとはそれほどアクロバティックなことはなく終結する。最終小節の2拍目はAbの和音で、これは主調ト短調ナポリの6度である。

グールド版がYouTubeにあった。

www.youtube.com

 

 

間違い探し Bach Well-Tempered Klavier I-4 Prelude

間違い探しです。

次の楽譜はバッハの平均律クラヴィーア曲集第一集の cis moll のpreludeの最後の8小節ですが、間違った音符が30くらい含まれています。さてどこが間違っているでしょう。音はこちら。オリジナルの楽譜は春秋社の1976年版を使いました。

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Bartok Violin Concerto No.2 Movt. 1

ハープの話になって思い出したのがこの曲である。冒頭、ハープのnon arpeggio の4つ打ちから始まる。スコアを見ていて、ハープが効果的に使われているなぁと思っていたら、284小節目からの4小節は相当厳しいのではないかと思った。

楽器の数が少ないので、expressionを全部はずして骨組みだけ示す。音はこちら

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作曲者は、ハープのペダリングを示していないので、仮にペダリングを付記してみた。エンハーモニックを使ってもう少し簡略化できるかもしれないが、これはハープ奏者は結構忙しい。

全体の和声構造をテキトーに解釈して一番下の段に示してみた。

だいたいにおいて3度積み重ねの和音を中心にしていて、長三和音+短三度音をぶつけるとか、伝統的な和音に厳しく不協和な音を付加するという形が多い(「単なる#9thだよ」という向きもおありだろうが)。横のつながりは一見無関係に飛び回っているように見えるが、常に1-2音の共有音を残してつながりをつけている。第一第二バイオリンが4分音符で基礎的な和音構造を与えて安定感を確保している。

このソロ・バイオリンパートは覚えにくそうだなぁ(笑)

 

 

 

Prokofiev "Peter and the Wolf"

プロコフィエフの調性の自由自在な扱い方は作品群の随所に見られるが、非常によく知られた代表的な例として「ピーターと狼」の冒頭部分(ピーターの主題)を見てみたい。音はこちら

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最初の2小節は伸びやかなハ長調で何事も起きないかのように思われるのに、3小節目でいきなりAbに飛ぶ。このメロディーも曲者で、Eb Major として(移動ドで)ドードソドードソ、ドーソーソーではない。もちろんAb Major としてソーソレ、ソーソレ、ソーレーレーでもない。BbではなくBナチュラルが入ってくるので、あえて言えばドードソ#、ドードソ#、ドーソーソーである。和音記号であえて書くなら、AbMaj7 +9 ということになろうか。この音に説得力をもたせてしまうのがプロコフィエフの天才であろう。4小節目の最後の和音は、Ebが変化した偶成和音ということであろうか。同じEbへ繋がるが、変化をもたせている。

5-6小節目は変ホ長調の主和音であろう(Eb)ヴィオラが間にCを挟んだり細かい芸はしているものの、最初の2小節の繰り返しである。

平和は7小節目に破られる。Bmの和音がくる。Eb から Bmへ。Eb G Bb から B D F#へ。長三度(減4度)下がってしかも短三和音になるというショック。しかし音楽は何事もなかったかのように主調であるハ長調のドッペルドミナントたるD7を経てドミナントに至り、ハ長調の主和音に解決する。

この8小節はのびのびとした雰囲気でありながら、トンデモない大冒険に出かけて帰ってくるという意味で主人公ピーターにぴったりの主題となっているわけである。

 

 

Yumi Arai (Matsutoya) "Hikouki-gumo" ひこうき雲 Reharmonized

稲垣潤一さんがデュエット・カバーアルバム「男と女」で、小野リサさんとともに荒井(松任谷)由実さんの「ひこうき雲」にチャレンジしておられます。

ボサノバに仕立ててあって、極めて軽くなっていて大変面白いのですが、ほのぼのとreharmoniozationが施されているので取り上げてみます。

荒井由実オリジナルはEb で、稲垣=小野バージョン(以下IOバージョン)は最初はDbで始まっています(途中で転調してしまいますが)。ここではわかりやすさを最優先にしてCで書いてみました。

上段がオリジナルのコード進行(本当はバスが動くのでこの通りではありませんが)で、下段がIOバージョンのrehamonization後のものです。間違っていたらご指摘よろしくお願いします。

音はこちら。前半がオリジナルバージョン、後半がIOバージョンです。バスの動きは省略しました。

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この曲の肝は譜例の11小節目、サビの3小節目でGm すなわち主調のVm あるいは Vm-I7 という主調のIV度へのアプローチにあります。ユーミンオリジナル版ではこれをサビまで大事にとってあって、サビで初めてVm(Gm)が出てくるのですが、IOバージョンでは「おいしいものは何度でも」ということで2小節目にしてすでに出てきちゃいます。

1小節目のDm7 3小節目のEm7は主要コード間を音階的に埋めています。4小節目の最後のF7 は次のEm7へのアプローチ、5小節目の後半のG7/Fは見た目はおどろおどろしいですが、実は前のEm7のバスが半音あがっただけです。6小節目ののEm7b5は、同D minor へのアプローチ、7小節目はIV度の和音(F)をII度(Dm7)で置き換えています。

問題のサビの3小節目後半(譜例の11小節目後半)はIOバージョンでは常にII-Vを意識して(Gm7-C7)の形で出てきます。12小節目後半はIV(F)から同主短調の借用和音Fmを通過するクリシェです。最後16小節目の頭のBbMaj7は、属和音であるG7に行く前にbVII度を通過するという、これも常套手段であります。

 

 

Hindemith Violin Concerto Movt.2

ヒンデミットのヴァイオリン・コンチェルトの第二楽章の途中である。どうでもいい話だが、このソロヴァイオリンのパートも覚えにくそうだなぁ(笑)この部分はちょっとだけ、ヒンデミットの手のうちが見えるように思うので取り上げてみた。

ソロヴァイオリンのb moll を思わせるフレーズで入ってきて、弦の伴奏はいきなりF#mである。第一バイオリンがC# ヴィオラがF#で固定された中を、第二バイオリンが A A# B B#(C) Bと半音で動くことで和音が継続して変わっていく。譜例の3小節目からあとは他のパートも動くが、基本的には半音ずつ動いていく。音はこちら

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譜例の5小節目2拍目からは、チェロと第二バイオリンが完全5度で平行移動していく。この部分では絃楽器はほとんど半音で移動しているのだが、7小節目の矢印の部分のチェロだけ、F#からEに全音で移動している。ここをFにしてしまうと前後のつじつまが合わなくなるのであろうな。

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譜例10小節目の第二バイオリンとチェロがオクターブになるのが少々気になるが、第二バイオリンはきれいに半音で降りてきているから、それほど問題ではないのかもしれない。譜例の11小節目では弦楽合奏は、9度音を除いたminor 11th になって並行移動していく。ソロヴァイオリンは、伴奏に対して合っているような合っていないような絶妙の距離感をとりながら下降してくる。

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YouTubeにあるオイストラッフの演奏(絶妙)では、上の譜例の部分は12'49"あたりから始まる。

www.youtube.com