Jun Yamamoto音楽を語る

Jun Yamamoto 音楽を語る

クラシックのおいしいところをつまみぐい https://jun-yamamoto.wixsite.com/jun-yamamoto

Tchaikovsky Piano Concerto No.2 Movt. I

あの印象的な第一番にくらべて、演奏機会の圧倒的に少ない、気の毒な曲である。CDも出ているが、第一番が数え切れないのに対し、ごくわずかである。

作曲の経緯などはWikipedia に詳しいので省略するとして、第一楽章の最初のテーマだが、私は長年勘違いしていた。お恥ずかしい限りだが、小節頭からの開始だと思っていた。正しくは4分の4拍子、一拍分のアウフタクトから始まる。

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堂々たるものだが、むしろ第3楽章の頭の方が似合うような気もする。スコアを見ているとやっぱりなにか「薄い」感じは否めない。オーケストラ主役でピアノがアルペジオを奏でるところも第一番の重厚さにくらべると、ピアノパートが「ぱらっ」としていて、薄い気がする。

第二楽章冒頭はヴァイオリンとチェロが長いソロを演奏するので、まるでヴァイオリンとチェロのダブルコンチェルトみたいである。チャイコフスキーとしては意欲的な試みだったのではなかろうか。後半はピアノ・トリオになる部分もあるが、やや退屈だ。アレクサンダー・ジロチはこの部分をかなりカットした改訂版を作ったらしいが、これを切ってしまったら違う曲になってしまう。多少退屈でもこの長さが必要だっただろう。

終楽章も華やかだし、いい曲だと思う。(少なくともメンデルスゾーンのつまらないピアノコンチェルトよりはるかにいい)最初のテーマが「ソラシドソ」となるのが、ちょっとベートーベンの弦楽四重奏曲第7番(ラズモフスキー)の冒頭を想起させる。

graziosoで出てくる第二テーマもスラブ風で楽しいんだけどな。コーダに入るところがちょっと唐突だけど、終わり方も見事だし。

おそらく、あの印象的な第一番がなければ、チャイコフスキーのピアノ協奏曲としてこの曲ももっと出番があったのではないかなぁ。

 

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Mozart Piano Concerto No. 24 c moll KV.491 Movt. 1

この曲の冒頭は絃楽器とファゴットのユニゾンなのだが、転調が多く、これをソルフェージュで初見視唱の課題に出されたらつらい。音はこちら

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単旋律で聴いていると40番交響曲の第4楽章にもそういうところがあるが、ほとんど12音音楽である。番号を振ってみたが、11小節目までで12音すべてが登場している。

このメロディーの肝は丸でかこったAsの音で、ハ短調と思わせて、Asの音を出すことで、VIの第二転回(あるいはAsを倚音と感じることもできる)特徴的なかつ多義的なフレーズになっている。

13小節目からは、和声をつけて、このメロディーの謎解きが為されている。ハ短調で始まり、ト短調ハ短調ヘ短調変ロ短調変ホ短調とめまぐるしく転調している。

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そのあと、21小節目でG上のCmの四六の和音となり、次にナポリの6°(Db/F)からCmを経てAbの減七和音になり(この和音は何なんでしょうね、偶成和音ですか)、またCmの四六の和音となりというのをもう一度繰り返してやっとドッペルドミナントD7b5b9に達してドミナントに繋がる。

非常に不安を感じさせる展開であり、モーツァルト短調の中でも異色なのではないだろうか。

 

 

"Love Is Over" by Kaoru Ito arranged by Akihisa Matsuura

昭和歌謡の名曲、欧陽菲菲さんの絶唱で有名な「ラブ・イズ・オーバー」をJUJUさんがカバーしているのだが、これの編曲者が松浦晃久さんで、そのリハモナイゼーションがチャーミングなので、コピーしてみました。音はこちら

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最初の部分はほとんど原曲を忠実になぞっている。

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さびにはいって、18小節目の後半I7(B7)の代わりにG#7#9を配して一瞬C# minor(嬰ハ短調)を響かせる。

 

20小節目の後半からは更に凝っていて、D#m7からD7を経てC#m7/F#7のII-Vに行くと見せかけてまさかのFm7b5(E#m7b5)を出して一瞬D# minor (嬰二短調)=主調から言えばIII度調 へ一瞬転調する。また本来ならば Fm7b5はBb7につながるべきところ、Bb7の代わりに裏コードであるE7b5をもってきているので更に複雑になっている。しかし、実際に演奏されたものを聞くと新鮮でありながら実に自然な流れになっている。

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終わりの部分も工夫がある。27小節目はずっとD#m7 (IIIm7)だったのを、I7しかも7th 9th 13thのテンションを配して新鮮な響きとしている。29小節目は本来属和音であるF#7が来るべきところA7b5(VIIb7)に逃げてみている。

往年の名曲がリハーモナイゼーションで装い新たになっている。しかも原曲の魅力は寸分も損なわない。上手いもんだなぁ。

 

 

Saint-Saens "La Cynge" from "Le carnaval des animaux"

 

 

いまさらながらの「白鳥」である。サン=サーンスの曲の中でも一番聞かれているのではないだろうか。おびただしい編曲があるし、アンコールなどでの演奏機会も多いだろう。

シンプルな一息の旋律。特に形式もなく、転調を経て冒頭部分がもどってきてすんなり終わってしまうのだが、フランスの和声課題にも似て、音楽のエッセンスが凝縮して詰め込まれている。旋律は見易さを考えて一オクターブ上げてあり、和声付けも骨組みだけ示してある。音はこちら

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旋律の2番目の音は非和声音である。4番目の倚音のEに解決する修飾音と捉えることも出来るかもしれない。二回目、6小節目は冒頭と同じだが、7小節目の冒頭の和音は不穏である。si と書いたのはロ短調という意味である。7小節目の冒頭はF#7(ロ短調の属和音)で、バスに掛留音が来ていると解釈してみた。

旋律は気持ちよくロ短調旋律的短音階を駆け上がり、9小節目で主音のBではなく三度音のDに達する。

次はSolと書いたのはト長調の意味である。主調ではあるが、ここでは経過的な性格を持つ。問題は10小節目の後半の和音である。何だろうね、これは?ト長調のドッペルドミナントの性格を持っているのは確かなのだが。素直にいけば、A7となるところだが、バスはBbだし、Dは入っているし、厚みのある和音になっている。

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12小節目からはFa。ヘ長調への転調である。先ほどと同じ経過をへて14小節目に達する。14小節目からは、普通にいけばla すなわちイ短調であるが、ここではA dorianをとっている。15小節目のIV-IのカデンツはF#を旋律にもっているが、この音はA dorianの特徴音である。

次はニ短調に転調する。16小節目の冒頭も一筋縄ではいかない和音である。バスが半音するっと下がってAの和音(ニ短調の属和音)になり、Dm(ニ短調の主和音)に一旦解決、Fが半音上がって主調のト長調にもどる。

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冒頭の旋律が再現するが、すぐに21小節目で一瞬ハ長調イ短調をへて主調のト短調にもどり25小節目の後半で属和音(ドミナント)を軽くならして(このあたりがフランス風ですね。ドミナントをあまりがんがん鳴らさない)、終わります。

いやー、小品ながらドラマに満ちていますよね~。

 (追記)

O先生から23小節目の4拍目はII7の第二転回形(バスに5度音)なので低音4度であり、和声法上禁則により準備が必要というご指摘を受けました。そういう意味ではここの和声は破格になっています。

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したがって、正書法で書くのであれば、

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左のようにII7を基本形にしてしまうと、バスとソプラノで並達8度になるので、O先生ご指摘のように素直にドッペルドミナントにしておくのが正解なのでしょうね(右側)

あー、これもあるかなぁ。

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David Foster "The Best Of Me"

David Fosterの音楽は常にリッチでキャッチーで、聴く人をそらさない魅力をもっている。この曲は最初オリヴィア・ニュートン=ジョンとのデュエットで発表され、"David Foster"という題名のアルバムに入っている。ここではアルバム"The Best of Me"のソロバージョンから採譜した。

この頃の彼の曲は、当時爆発的な進化を繰り広げていたシンセサイザーサウンドを全面に取り入れている。シンセベースの分厚い音の上に、緻密に音が積み上げられ、まるで壮大な建築物を見上げるかのようだ。

ブラスセクションもシンセサイザーをつかって、本物のブラスアンサンブルを使うよりもキレのある音になっている。発音時にちょっとグリスアップする音はトレードマークといっていい。Yamaha CS-80かと思っていたが、よくわからない。OberheimとかJupiter 8あたりかもしれない。いずれにせよ、当時のポリフォニックシンセサイザーなしには、実現し得なかった音である。

ここでは曲の骨組みがわかるように、単純化した楽譜を示す。歌のフレージングなどは細かいところで違っているかもし得ないがご容赦ください。音はこちら

 

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キーはあたたかみのあるGbである。歌の部分は掛留音(r)の嵐。七としたのは和音の7度音である。13小節目のバスのAb はIIm7のルートだが、すぐに動かず、一拍延ばされている。この延ばされたIIm7は実に効果的である。ここの進行は、冒頭から属和音ではじまり、

V-I-IV-IIm7-IIIm7-IV-V-VIm7-IIm7-V-I となっている。

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20小節目のCm7b5-F7は一瞬だけVI度調への転調をしており、これまた実に効果的。

22小節目の3拍目の和音がちょっと変わっている。Abm7のあと、バスをAbにおいたまま、Fb(=E)を鳴らしている。VIIbの音であるが、転調というよりは、このVIIbの音をいれて、和音にちょっとした色付けをしていると考えたほうがいいかも知れない。機能的には

IIm7-VIIbmaj7-IIm7-V7-I 

という進行になっている。この進行は気に入ったらしく、最後の部分では二回続けて出てくる。

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Hall & Oates "Kiss on my list"

気になるコード進行というものがある。どうなっているんだろう、と思いながら長年放置してあったりする。耳のいい人は楽譜に印刷されたように聞こえているんだろうが、こちらはなかなかそうはいかない。なんどもピアノで確かめて、ああそうだったのか、ということになる。

AORの名曲"Kiss on my List"もそのような曲の一つである。メジャーとマイナーが交錯して、微妙な陰影をかもし出している。曲はダリル・ホールだが、詞はJanna Allen、ダリルのガールフレンドの姉妹だそうだ。

リフレインは、「君のキスは、僕の最高のものリストに載っている」と繰り返すが、その前に、

 When they insist on knowing my bliss
I tell them this
When they want to know what the reason is
I only smile when I lie, then I tell them why

とあるのだが、これも嘘なのか?

楽譜は、コードの骨組みだけで、コーラスが加わってはるかに分厚い和音が鳴っている。シブいです。

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Sibelius String Quartet op. 56 "Voice Intimae" Movt. 2

これを最初に聞いたときはびっくりしました。楽譜はたしかにイ長調らしいのですが、機能的な和声を書こうという意思はまったくないし、対位法的に書こうという意思もみとめられない。絃楽器で勢いよく演奏されるとなんとなく納得してしまいますが、そうとう実験的な音楽です。しかも、成功しているのがすごい。

この冒頭部分(練習番号1まで)はすべて16分音符ですが、見易さのために最初だけ16分音符で書いてあります。音はこちら

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弦楽四重奏だとそうでもないのですが、ピアノの音にしてみると超機械的な感じがします。

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